第23話 学園に広がるハロウィンの噂
「ねえ、知ってる?」
昼休み。
魔法学園の食堂で、一人の女子生徒が友人に声をかけた。
「何を?」
「ゴーストタウンで、お祭りをやるんだって!」
「ゴーストタウン?」
その言葉を聞いた瞬間、周囲の生徒たちが振り返る。
学園から少し離れた場所にある、古びた街。
誰も近づきたがらない場所として有名だった。
「危険な魔物がいるって聞いたけど。」
「それが違うらしいの!」
女子生徒は興奮した様子で身を乗り出した。
「ゴーストやゾンビがいるんだけど、みんな可愛いんだって!」
「可愛いゾンビ?」
「そう!」
「それでね、今度そこで――」
女子生徒は一枚の紙を取り出した。
「ハロウィン・フェスティバルをやるんだって!」
「ハロウィン?」
「何それ?」
「私も知らない。」
聞き慣れない言葉に、生徒たちは顔を見合わせる。
女子生徒は紙を読み上げた。
「仮装。」
「お化け屋敷。」
「カボチャ料理。」
「ランタン。」
「ゲーム。」
「夜のパレード!」
「楽しそう!」
一人が声を上げた。
「でも、本当に安全なの?」
「学園が許可してるんだから大丈夫じゃない?」
「それに――。」
別の男子生徒が掲示板を指差す。
「入場無料って書いてあるぞ。」
「無料!?」
一瞬で食堂がざわめいた。
「行こうよ!」
「面白そう!」
「仮装って何着ればいいんだ?」
「魔法で作れるんじゃない?」
「じゃあ私は魔女!」
「僕は吸血鬼!」
「私は幽霊!」
たった数分で、話は学園中へ広がっていった。
そして――。
「ルミナ・ヴァレンタインが関わってるらしいよ。」
その名前が出た瞬間、一部の生徒たちが驚く。
「え?」
「ルミナが?」
「じゃあ、変なイベントではないわね。」
「確かに。」
名家の令嬢であり、真面目で知られるルミナ。
その彼女が運営に関わっている。
それだけで、イベントへの信頼度は一気に上がった。
しかし。
本人はその頃――。
「どうしてこうなったの……。」
ゴーストタウンの事務所で頭を抱えていた。
目の前には、参加希望者の一覧。
「二十人。」
「三十人。」
「五十人……。」
ルミナは紙をめくる。
「……百人?」
「え?」
ヨイが隣から覗き込む。
「百人?」
「ええ。」
「まだ募集開始して半日よ。」
「……。」
ヨイは沈黙する。
そして。
「最高じゃん!」
「最高じゃないわよ!」
ルミナが即座にツッコむ。
「百人も来たら、今の設備じゃ足りないわ!」
「お化け屋敷は?」
「一つ。」
「カフェは?」
「十席。」
「屋台は?」
「三つ。」
ヨイは腕を組んだ。
「……足りない。」
「でしょう?」
「なら増やそう。」
「簡単に言わないで!」
ルミナが机を叩く。
「人手も足りないし、材料も足りない!」
「それに安全管理も必要。」
「お客様が怪我したら大変なのよ!」
ヨイは少し考えた。
「……ルミナ。」
「何?」
「手伝ってくれる人を募集しよう。」
「学園から?」
「そう。」
ヨイは笑った。
「イベントを見に来るだけじゃなくて、作る側にもなってもらう。」
「参加型?」
「そう。」
「受付。」
「案内。」
「屋台。」
「ゲーム。」
「装飾。」
「全部、学園の生徒にも手伝ってもらう。」
ルミナは少し考えた。
そして、ゆっくり頷く。
「……それならできるかもしれない。」
「よし!」
ヨイは立ち上がる。
「じゃあ、スタッフ募集だ!」
その日の夕方。
学園の掲示板に、新しい紙が貼られた。
『ハロウィン・フェスティバル運営スタッフ募集!』
その下には、仕事内容が並んでいる。
受付。
料理。
飾り付け。
ゲーム係。
お化け屋敷キャスト。
夜間パレード。
そして――。
『ゴーストたちと一緒に働いてみたい人、大歓迎!』
その一文が、生徒たちの心をつかんだ。
「ゴーストと働けるの?」
「やってみたい!」
「私、お化け屋敷やりたい!」
「俺は屋台!」
「パレードも面白そう!」
翌朝。
ゴーストタウンの門前には――。
長い行列ができていた。
「……。」
ヨイは門の上から、その光景を見下ろす。
「ルミナ。」
「何?」
「これ。」
「うん。」
「ちょっと人、多すぎない?」
ルミナは無言で頷いた。
パンプが嬉しそうに叫ぶ。
「お客さんいっぱい!」
ココも大喜びする。
「街がにぎやかになりますね!」
アルは空を見上げる。
「これは……夜まで忙しくなりそうだ。」
ヨイは拳を握った。
「よし。」
「本気でやろう。」
こうして、ゴーストタウンは初めて――。
人間と魔物が一緒に作る、本格的なイベント会場へと変わっていく。
そして、ハロウィン当日まで。
残り二週間。
まだ準備は始まったばかりだった。




