第22話 ハロウィンの街、準備開始!
「よし!」
ヨイは大きく手を叩いた。
「今日から本格的に始めよう!」
ゴーストタウンの中央広場。
そこには、ヨイ、ルミナ、パンプ、ココ、アル。
そして、いつの間にか街へ集まってきた数人の村人たちが並んでいた。
「何を始めるの?」
パンプが首をかしげる。
ヨイは広場を指差した。
「ハロウィンだよ。」
「はろうぃん?」
村人たちも不思議そうな顔をする。
「聞いたことのない言葉ですね。」
「簡単に言えば――」
ヨイは地面に大きな円を描いた。
「収穫祭。」
「そして、お祭り。」
「さらに、お化け屋敷。」
「お化け屋敷!?」
パンプの目が輝いた。
「やりたい!」
「パンプは絶対好きよね。」
ルミナが苦笑する。
「でも、お化け屋敷って何をするの?」
ココが首をかしげる。
ヨイは胸を張った。
「お客さんを怖がらせる!」
「怖がらせる……?」
「そう!」
「でも。」
ココが小さな手を上げる。
「私、怖がらせるの苦手です。」
「大丈夫。」
ヨイは笑った。
「ココは怖がらせなくていい。」
「え?」
「可愛さ担当。」
「かわいさ……?」
ヨイはココの頭をぽんぽんと撫でる。
「ココが出てきて、『うらめしや~』って言う。」
「それだけ?」
「それだけ。」
「怖くないですよ?」
「それでいい。」
ヨイは笑った。
「怖いだけがお化け屋敷じゃない。」
「びっくりする。」
「笑う。」
「ちょっとドキドキする。」
「最後に楽しかったと思ってもらう。」
「それがハロウィンだ。」
ルミナは感心したようにヨイを見る。
「怖がらせることが目的じゃなくて、楽しませることが目的なのね。」
「その通り。」
「なるほど……。」
ルミナは手帳に書き込む。
「ハロウィン。」
「収穫祭。」
「お化け屋敷。」
「ランタン。」
「屋台。」
「ゲーム。」
「パレード……。」
「パレード?」
パンプが反応した。
「それもやるの?」
「もちろん。」
ヨイは笑った。
「夜になったら、街中にカボチャのランタンを灯す。」
「そして、みんなで歩く。」
「それだけで綺麗だと思わない?」
「絶対きれい!」
パンプが飛び跳ねる。
「ぼく、ランタン持つ!」
「私は料理を作ります!」
ココが手を挙げる。
アルも腕を組みながら言った。
「空からの演出なら任せてほしい。」
「アルさん、飛べるの?」
「一応。」
「一応なんだ……。」
そんな会話をしていると――。
「ちょっと待って。」
ルミナが手帳を閉じた。
「一つ問題があるわ。」
「何?」
「お客さん。」
「うん。」
「誰が来るの?」
「……。」
ヨイが固まった。
「……そこは考えてなかった。」
「でしょうね!」
ルミナが頭を抱える。
「ハロウィンを知らない人たちに、どうやって来てもらうのよ!」
「学園。」
ヨイが突然顔を上げた。
「え?」
「すぐ近くに魔法学園がある。」
「生徒たちを招待しよう。」
ルミナの目が見開かれた。
「なるほど……。」
「学園祭みたいな感覚で参加してもらえばいい。」
「でも、学園側が許可してくれるかしら。」
「そこは――。」
ヨイはルミナを見る。
「お願いできる?」
「私が?」
「だってルミナ、学園の生徒だろ?」
「そうだけど……。」
「成績もいい。」
「それとこれとは関係ないでしょう?」
「真面目で信頼されてる。」
「……。」
ルミナは黙り込んだ。
ヨイが笑顔で手を合わせる。
「お願いします。」
「……仕方ないわね。」
ルミナはため息をついた。
「学園側との交渉は私がやる。」
「ありがとう!」
「ただし。」
ルミナはヨイを指差した。
「危険なことは絶対禁止。」
「はい。」
「お客さんを本当に怖がらせすぎない。」
「はい。」
「魔力カボチャを暴走させない。」
「……はい。」
「今、間があったわよね?」
「気のせい。」
「絶対違う。」
みんなが笑う。
その日の午後。
街のあちこちで作業が始まった。
古い建物はお化け屋敷へ。
空き家はハロウィンカフェへ。
広場は屋台とステージへ。
街灯には黒い布と小さなコウモリの飾り。
そして――。
畑から収穫された小さなカボチャには、ひとつひとつ顔が彫られていく。
「できた!」
パンプが一つ持ち上げる。
「怖い?」
ヨイが見る。
そこには――。
ぐにゃりと曲がった口。
左右で高さの違う目。
そして、なぜか眉毛が一本。
「……怖いというより面白い。」
「失敗?」
「いや。」
ヨイは笑った。
「最高だ。」
パンプは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もっと作る!」
夕暮れ。
ゴーストタウンの入口には、最初の看板が取り付けられた。
そこには大きく――。
『ようこそ! ハロウィン・タウンへ!』
と書かれている。
ルミナは看板を見上げた。
「本当に……変わったわね。」
「まだ始まったばかりだよ。」
ヨイは街を見渡す。
以前は誰も近寄らなかった。
今は違う。
笑い声が聞こえる。
明かりが灯っている。
畑にはカボチャが育っている。
そして、仲間たちがいる。
「ここを。」
ヨイは静かに呟いた。
「誰もが一度は行ってみたい街にする。」
その時。
街の入口から、一人の生徒が走ってきた。
「ルミナ!」
「どうしたの?」
「学園の先生から返事が来た!」
ルミナが手紙を受け取る。
封を開く。
そして――。
目を見開いた。
「……許可が出たわ。」
「本当に?」
「ええ。」
ルミナは笑った。
「学園から、希望者をハロウィンイベントへ参加させてもいいって。」
「よっしゃあああ!」
ヨイが拳を突き上げる。
パンプもココも大喜び。
「お客さんが来る!」
「たくさん来ますね!」
アルは静かに空を見上げる。
「夜の街が、にぎやかになりそうだ。」
ヨイは笑顔で街を見渡した。
ゴーストタウンだった場所は、もう少しずつ変わり始めている。
しかし――。
まだ誰も知らない。
この日、学園に掲示された一枚の告知が。
後に、想像をはるかに超える人数をゴーストタウンへ呼び寄せることになるとは。
「異世界初のハロウィン・フェスティバル」
その名前が、初めて人々の目に触れた瞬間だった。




