第20話 初めての魔力付与
「もう少し、魔力が欲しい……か。」
ヨイは畑の前で、カボチャの葉をじっと見つめていた。
昨日までは、なんとなく感じる程度だった。
けれど今は違う。
植物が何を求めているのか。
どこが苦しいのか。
どこへ伸びたいのか。
少しずつ分かるようになってきている。
「社長?」
パンプが隣から顔をのぞき込む。
「さっきから何を考えてるの?」
「このカボチャに、魔力をあげてみようかなって。」
「魔力?」
ルミナが振り返った。
「待って。」
「何をするつもり?」
「ちょっとだけ。」
「ちょっとだけって……。」
ルミナは不安そうに眉を寄せる。
「昨日みたいに急に大きくなったりしないでしょうね?」
「たぶん。」
「たぶんじゃ困るのよ!」
思わずルミナが声を上げる。
ヨイは苦笑した。
「じゃあ、本当に少しだけにする。」
「それなら……。」
ルミナはため息をついた。
「絶対に無理はしないで。」
「了解。」
ヨイはカボチャの根元にしゃがみ込んだ。
そして、そっと手を伸ばす。
「魔力を……流す。」
目を閉じる。
自分の体の中を巡っている何かを、指先へ集める。
最初は何も起きなかった。
「……。」
「……。」
パンプたちが息をひそめる。
すると。
ぽっ。
指先に、小さな緑色の光が灯った。
「光った!」
パンプが叫ぶ。
「静かに!」
ルミナが慌てて口を押さえる。
光はゆっくりとカボチャの葉へ移っていく。
葉の表面を流れ、茎へ。
そして根へ。
土の中へと消えていった。
「これで……どうだ?」
ヨイは手を離した。
カボチャは何も変わらない。
「失敗?」
パンプが首をかしげる。
「そうかもな。」
ヨイが笑った、その時。
ぽこん。
小さな音がした。
「え?」
全員が振り返る。
カボチャのつるの先。
そこに、小さな黄色い花が咲いていた。
昨日まではなかった。
「花……。」
ココが目を輝かせる。
「かわいいです!」
ルミナは花をじっと見つめる。
「こんなに早く開花するなんて……。」
「魔力をあげたから?」
ヨイは首をかしげた。
「たぶん。」
その瞬間。
花がふるふると揺れた。
そして――。
ぽん。
花の根元に、小さな丸い実が現れる。
「カボチャ……!」
パンプが目を丸くした。
まだ親指ほどしかない。
小さな小さなカボチャ。
けれど確かに、実だった。
「成功した……。」
ヨイは思わず笑う。
「俺の魔力で、成長を少しだけ早められた。」
アルが腕を組む。
「違う。」
「え?」
「ただ成長を早めただけではない。」
アルは小さな実をじっと見つめる。
「魔力を与えたことで、植物そのものが魔力を蓄え始めている。」
ルミナが驚く。
「つまり……魔力を持ったカボチャになる?」
「そういうことだ。」
ヨイは小さな実へ手を伸ばす。
触れた瞬間。
ぽわっ。
実がほんの少しだけ光った。
「……。」
「かわいい。」
ココが嬉しそうに笑う。
パンプも顔を近づける。
「名前つけようよ!」
「名前?」
「うん!」
パンプは腕を組んで真剣に考える。
「魔力カボチャだから……。」
「マジカボ!」
「……そのままね。」
ルミナが苦笑する。
「じゃあ、パンプキン・マジック。」
「長い!」
「じゃあ……。」
ヨイは少し考えてから笑った。
「マギカボ。」
「マギカボ?」
「魔力を持ったカボチャだから。」
「いい!」
パンプが嬉しそうに飛び跳ねる。
「マギカボ!」
ココも両手を叩く。
「かわいい名前です!」
こうして、小さな魔力カボチャは「マギカボ」と呼ばれることになった。
だが、その日の夜。
ヨイたちが眠りについた後。
畑では不思議なことが起きていた。
月明かりが畑を照らす。
マギカボの葉が、ほんのりと青白く輝いている。
そして――。
ころん。
小さな実が、ほんの少しだけ大きくなった。
ころん。
もう少し。
さらにもう少し。
まるで月の光を吸い込むように。
魔力を蓄えながら、静かに成長していく。
その畑の隅。
誰にも触れられていない黒い種が入った袋も、かすかに震えていた。
「……。」
もちろん、誰も気付かない。
まだ。
この時は。
翌朝。
「社長ーーーーーっ!!」
ゴーストタウン中に、パンプの絶叫が響き渡った。
「大変だーーーーー!!」
ヨイは飛び起きる。
「何だ!?」
「カボチャが!」
「カボチャがどうした!?」
「昨日より三倍くらい大きくなってる!!」
「……え?」
ヨイは寝ぼけたまま畑へ走る。
そこにあったのは――。
昨日まで親指ほどだった小さなマギカボ。
それが今では、両手で抱えるほどの大きさになっていた。
「……。」
「……。」
全員が言葉を失う。
そしてヨイは、ゆっくりと空を見上げた。
「……魔力付与。」
「これ、ちょっと面白いかもしれない。」
ルミナだけが、嫌な予感を覚えていた。
「……ヨイ。」
「ん?」
「くれぐれも、やりすぎないでね。」
ヨイは笑顔で答えた。
「もちろん。」
その約束が、後に街中を巨大カボチャだらけにすることになるとは――。
まだ誰も知らなかった。




