第12話 毎日通う優等生
翌日の放課後。
「失礼します。」
ゴーストタウンの門をくぐる小さな足音が響いた。
「ルミナ!」
パンプが真っ先に気付く。
「いらっしゃい!」
「こんにちは、パンプ。」
「今日も来た!」
「……たまたまよ。」
ルミナは少しだけ視線をそらす。
「畑の様子を見に来ただけ。」
「毎日?」
「たまたま毎日よ。」
「それ、毎日って言うんじゃ……。」
「言わないの!」
パンプは首をかしげる。
難しいことはよく分からない。
でもルミナが来ると、街が少しだけ明るくなる気がした。
「社長!」
「おう。」
ヨイは畑の前でしゃがみ込んでいた。
「あ、おは……じゃない。」
ルミナは少し照れながら言い直す。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
ヨイは笑顔で手を振る。
「ちょうどよかった。」
「何かあったの?」
「見て。」
畑を指差す。
ルミナは視線を向けた。
「え……。」
昨日まで小さな双葉だったカボチャ。
今日は葉が四枚に増えている。
つるも少しだけ伸びていた。
「早い……。」
「普通は?」
「こんな成長、一週間以上はかかるわ。」
ヨイは腕を組んだ。
「やっぱり早いよな。」
「でも急成長ってほどじゃない。」
「そうね。」
ゆっくり。
だけど確実に。
普通より何倍も早く育っている。
「これなら間に合うかも。」
ヨイがつぶやく。
「半年後の領地審査。」
ルミナも小さくうなずいた。
その時だった。
「社長!」
ココが慌てて走ってくる。
「どうした?」
「お水!」
「お水?」
「井戸のお水が出ません!」
「え?」
四人は急いで井戸へ向かった。
街の中央にある古い石造りの井戸。
パンプが何度もハンドルを回している。
「うー!」
ギシギシ。
ギシギシ。
だが、水は一滴も出てこない。
「壊れた?」
ココが心配そうにのぞき込む。
アルが中を確認する。
「……違う。」
「え?」
「長年使われなかったせいで、地下水路が詰まっている。」
「直せますか?」
「大掛かりになるな。」
ヨイは井戸を見つめた。
(困った。)
畑には毎日水が必要だ。
井戸が使えなければ、水を運び続けるしかない。
「うーん。」
その時だった。
ヨイは昨日芽吹いたカボチャを見る。
葉が少しだけ元気をなくしていた。
(……水が欲しい。)
そんな気がした。
「え?」
頭の中へ、小さな声が響く。
(お水。)
(もっと、お水。)
「……。」
ヨイは無意識に井戸へ手を添えた。
「社長?」
パンプが首をかしげる。
ヨイは目を閉じる。
地下へ意識を向けるような、不思議な感覚。
暗い土。
細い根。
冷たい水。
そして――。
(ここか。)
自然と、詰まっている場所が頭に浮かんだ。
「アルさん。」
「何だ?」
「井戸の西側。」
「地下三メートルくらい。」
「木の根っこが水路を塞いでる。」
アルは目を見開いた。
「見えるのか?」
「いや……。」
ヨイ自身も説明できない。
「何となく分かる。」
アルはすぐにスコップを持ち出した。
「試してみよう。」
みんなで掘り始める。
十分。
二十分。
汗だくになった頃。
ゴツン。
アルのスコップが硬いものへ当たった。
「これか。」
土を払うと、太い木の根が石管へ絡みついている。
「本当にあった……。」
ルミナは驚きを隠せない。
アルは根を慎重に切り離した。
その瞬間。
ゴボッ!
井戸の中から大きな音が響く。
「社長!」
パンプが叫ぶ。
次の瞬間。
ジャバーッ!!
透き通った水が勢いよくあふれ出した。
「出たー!」
パンプが飛び跳ねる。
ココも拍手する。
「すごい!」
ルミナは井戸の水を両手ですくった。
冷たくて澄んでいる。
「きれい……。」
ヨイは井戸を見つめながら、小さく笑った。
(まただ。)
植物だけじゃない。
土地の声も、少しだけ聞こえた。
まだはっきりとは分からない。
でも確実に、自分とこの街はつながり始めている。
その様子を少し離れた丘の上から、一人の男が見つめていた。
黒いローブ。
深くかぶったフード。
赤い瞳が細く笑う。
「土地に愛される者、か。」
男は静かにつぶやく。
「思っていた以上に面白い。」
風が吹き、ローブが揺れる。
男は誰にも気づかれぬまま、森の奥へ姿を消した。
その背中を見送る者は、まだ誰もいなかった。




