第11話 芽吹いた小さな奇跡
朝日がゴーストタウンを優しく照らしていた。
屋敷の前には、昨日みんなで耕した畑が広がっている。
「今日は種まきだ!」
ヨイが元気よく宣言すると、パンプが両手を上げた。
「待ってました!」
「やっと植えられる!」
ココも大事そうに布袋を抱えている。
中には王都で買ってきたカボチャの種が入っていた。
「これがハロウィンになるの?」
パンプは種をじっと見つめる。
「そう。」
ヨイは一粒つまみ上げた。
「この小さな種が、大きなカボチャになる。」
「へぇ……。」
パンプは感心したようにうなずく。
ルミナは手帳を開きながら言う。
「黄金南瓜の収穫までは四〜六か月。」
「水やりや魔力管理も必要ね。」
「半年かぁ。」
パンプは肩を落とした。
「長い……。」
「だから毎日育てるのが楽しいんだ。」
ヨイは笑いながら畑へしゃがみ込む。
指で小さな穴を掘り、種をそっと寝かせる。
柔らかな土をかぶせる。
最後に優しく手を添えた。
「大きくなれ。」
その瞬間だった。
ふわっ。
掌から淡い緑色の光が漏れた。
「え?」
ヨイ自身が驚く。
光は土へゆっくり染み込み――
静かに消えた。
「今の……。」
ルミナが目を丸くする。
アルも少しだけ眉を動かした。
「魔力……か?」
パンプは畑をのぞき込む。
「何か起きる?」
「……何も起きないな。」
ヨイは苦笑した。
「気のせいか。」
ところが。
ココが小さく声を上げる。
「あの……。」
「どうした?」
「ここ。」
ココが指差した場所。
土が、ほんの少しだけ揺れていた。
もこっ。
小さな緑色の芽が顔を出す。
「芽が出た!」
パンプが飛び上がる。
「もう?」
ルミナは思わずしゃがみ込んだ。
「そんな……。」
芽は双葉を開くと、それ以上は成長しなかった。
風に揺れながら、小さく葉を震わせている。
「止まった?」
パンプが首をかしげる。
「止まったね。」
ヨイも不思議そうに芽を見つめる。
アルは葉にそっと触れ、目を閉じた。
「普通ではない。」
「え?」
「だが、異常というほどでもない。」
「どういうこと?」
「本来なら芽が出るまで数日はかかる。」
「これは数分。」
ルミナが息をのむ。
「それだけでも十分すごいわ。」
アルは静かにうなずく。
「植物との相性が良いのかもしれない。」
「相性?」
「珍しい才能ではある。」
「でも。」
ヨイは芽を見つめながら首をかしげた。
「もっと育つと思ったんだけどな。」
「十分ですよ!」
ココが笑顔で言う。
「初日ですもん!」
「そうだな。」
ヨイも笑った。
焦る必要はない。
街づくりも。
畑も。
少しずつ育てていけばいい。
その時だった。
ひらり。
一匹の黄色い蝶がどこからともなく飛んできた。
芽の上へ止まる。
続いて二匹。
三匹。
「蝶だ!」
パンプが嬉しそうに追いかける。
「この街で初めて見た。」
アルが静かにつぶやく。
「今までは一匹も来なかった。」
ルミナも驚いていた。
「植物が生まれたから……?」
ヨイは小さな芽を見つめる。
たった一つ。
まだ手のひらほどの双葉。
それでも、この小さな命が街へ変化をもたらしている。
「大丈夫。」
ヨイは優しく葉をなでた。
「ゆっくりでいい。」
「一緒に育とう。」
その言葉に応えるように。
双葉が風に揺れ、小さく光った気がした。
誰も気付かないほど淡い光だった。
だが、その芽の奥では、まだ眠ったままの不思議な力が静かに目を覚まし始めていた。




