98.スレイプニル車台
98.スレイプニル車台
マクリール夫妻はヤモとマオの姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
二人に手を振ってしばしの別れを告げたヤモとマオはスレイプニル車台の乗り合い場所まで向かう。
スレイプニル車台乗り合い場所のある東門に到着したのは二十分前。
乗り合い場所には二頭のスレイプニルと繋がれた車台、初老の男性御者と数人の予約客が待っていた。
車台を繋いだスレイプニルは御者に鼻梁を撫でられながらゆったりとした表情で佇んでいる。
機嫌が良いのか筆のように長く滑らかな尾を揺らしていた。
スレイプニルは魔物ではあるが気性が非常に穏やかで、ヒューマンを襲わない。
むしろヒューマンの仕事や生活をサポートし共生できる稀有な魔物の一種なのだ。
長い耳と鬣に面長な顔。体高は百七十cmほど。芦毛の体躯と四本の脚は引き締まり、長い睫毛の下にある三つの瞳は、穏やかな湖面色をしている。
四の脚は走ることに適しており、持久力と脚力は魔物の中でもトップクラス。
草原を颯爽と駆けるスレイプニルの姿は目に焼き付くほどに厳かで美しく、絵画のモデルになるほどだ。
「出発時間になりましたらお声がけいたしやす。皆さん、それまでゆっくりなさってくだせえ」
集まりだした予約客たちに御者が声をかけた。
御者の言葉に従い、予約客たちは談笑をしたり購入してきた朝食を食べ始める。
「マオ、私たちも食べようか」
「はい!ヤモおねえちゃん」
ヤモとマオは空いていたベンチに腰掛けて、マクリール夫妻が持たせてくれたロブスタルロール入りの紙袋を取り出す。
閉じられていた紙袋を開けると、途端に良い香りが食欲を刺激する。
ヤモとマオはロブスタルロールを取り出して心を弾ませながら、一口頬張った。
ブリオッシュはふっくらと柔らかく豊かな風味が鼻腔をくすぐってくる。
マヨネーズとレモン汁、ハーブと和えられたロブスタルは旨味たっぷりだ。
ロブスタルの下に塗られたバターはコクとまろやかさがあり、和えるために使われたマヨネーズの酸味と相まって、さらにおいしさを引き立ててくれている。
夢中になって頬張ってしまうおいしさだ。
「ヤモおねえちゃん、おいしいですね!」
「ああ、うまいな」
マオとヤモは顔を見合わせて笑みを交わした。
絶品のロブスタルロールを食べ終わってからしばらくすると、
「お待たせいたしやした、出発のお時間です。皆さん、車台にお乗りくだせえ」
ヤモとマオを含めた予約客たちに御者から声がかけられた。
「マオ、私たちも行こう。さあ、フードを被るんだ」
「はい、ヤモおねえちゃん!」
外套のフードをかぶったヤモは、マオを肩にのせて予約客達の列に並んだ。
予約客はヤモとマオは含めて六人。乗りこむ際は御者に身分証を見せることになっている。
ヤモとマオの場合はギルドカードが身分証だ。
乗りこんだ車台のの中は、思いのほかゆったりと広く、ヤモとマオは奥の角に場所を取って座った。




