88.どうにもできないこと
88.どうにもできないこと
報告のために、オッティモから冒険者ギルドに移動したヤモとマオは、リーシャに頼みフレデリカに会えることになった。
リーシャに案内されてヤモとマオは二階の執務室へ向かう。
扉を開けると書類から顔を上げたフレデリカが労いの言葉と共に、ヤモとマオを迎えてくれた。
「ヤモ、マオ。おつかれさまだったね。さあ、座ってくれ」
フレデリカ、ヤモとマオは長机を挟んでソファに腰掛ける。
リーシャは手際のよい動きで、くヤモには紅茶、マオにはホットミルティアジュース、フレデリカにはコーヒーを用意してくれた。
三つのカップからは、湯気と香りが儚い陽炎のようにくゆっている。
ヤモとマオは依頼の調査結果をフレデリカに伝えていった。
同時に、どうにかラミア洞窟に入れないかをフレデリカに懇願する。
「マオたち、ちょっとだけでもラミアどうくつにはいりたいんです!フレデリカおねえちゃん、おねがいします…!」
「フレデリカ、難しいことは重々に理解している。だが、どうにかしてラミア洞窟に入る許可は取れないだろうか?」
無理は百も承知だが、マオとヤモの心の中には一縷の望みとすがるような願いがあった。
しかし、ヤモとマオの期待に反して報告を聞いているフレデリカの顔は徐々に険しさを帯びていく。
フレデリカの後ろに控えて話を聞いていたリーシャの表情も暗みを帯びていた。
報告と懇願を終えた後に訪れたのは、長く息苦しい沈黙。
深い水底のような沈黙を破るように、フレデリカがゆっくりと口を開いた。
「ヤモ、マオ。君達の気持ちは分かる。たが、禁足地が絡むとなると…私は何もできない」
フレデリカは硬質な、だがそれでいてヤモとマオを慮るような温かな声音で告げる。
ヤモとマオの微かな望みは、わずかな希望を残すこともなく消失した。
頼みの綱であったギルドマスターにこう言われてしまえばヤモとマオは手も足も出ない。
微かな望みも期待も完全に絶たれてしまった。
ヤモとマオに出来たのはフレデリカの言葉に頷くことのみ。
「依頼人への報告へは私も同行しよう。リーシャ、バートン男爵家への連絡を頼む。明日、時間を作っていただきたいとお伝えしてくれ」
「かしこまりました、マスター…」
フレデリカからの命を受けたリーシャは、部屋を後にしていった。
今回の依頼人は男爵令嬢のプリシラ。
さらに、彼女は身ごもっておりお腹の子の父親であるニックは禁足地に足を踏み入れてしまっている。
複雑な上にバートン男爵家にとってみれば大変なスキャンダルだ。
だからこそ、ギルドマスターのフレデリカが同行して説明する必要がある。
加えて、フレデリカは自らが矢面に立つことでヤモとマオ、そしてプリシラ達をを守ろうとしてくれているのだ。
フレデリカは彼女が出来る精一杯のことをしてくれている。
「明日の朝にギルドで合流してバートン男爵家へ向かおう。ヤモ、マオ、力になれなくてすまない。ギルドマスターが、聞いて呆れるな…」
「そんなことないです!フレデリカおねえちゃんは、かっこいいギルドマスターさんです!」
「マオの言う通りだ、フレデリカ。感謝するよ。私たちこそ、無理を言ってすまなかった」
「気にしなくていよ、ヤモ。私が君達と同じ状況ならば、同じように無理を言うはずだからね。さぁ、今日は疲れただろう、二人とも帰ってゆっくり休みなさい」
マオとヤモの力のこもった言葉に、フレデリカ柔らかくはおおらかな微笑みで応える。
こうして、この日は解散となりヤモとマオはキッチンかまどへと家路につくことになったのだった。




