76.オティとハウメア
76.オティとハウメア
王都にあるすべての宿屋で調査を終えたヤモとマオは、道行く人々に話を聞きながら、次の目的地・オッティモを目指して飲食店街まで戻ってきた。
さて、その宿屋での調査と聞きこみの結果だが。
「おじちゃんたち、おやどにとまっていなかったですね…」
「そうだな…こうなったら、四大地方を一つずつ回っていくしかないのか…」
大小問わず、王都中の宿屋を調べたというのに、有力な情報は得られずすべて空振り。
ヤモとマオの肩は意気消沈を表すように、がっくりと落ちていた。
口で言うのは簡単だが、四大地方を一つずつ調べて回るのは容易なことではない。
そもそも、ニックと三人組がどの門を通りどの地方に向かったのか見当もつかなのだ。
捜すとなると途方もない時間と長い年月を要するだろう。
ヤモとマオは、同時に深刻な憂いをこめたため息をついた。
人捜しは短期間で解決出来ることではないと、頭では理解している。
だが、バートン家族のために早くニックを捜し出したい。
そう強く思っても、現状以上の有力な情報は得られず、気持ちばかりが焦ってしまう。
(ソフィ・アストリッドは、すごかったんだな…)
ヤモは改めて伝説のリエゾン、ソフィ・アストリッドの偉大さを思い知る。
ヤモとマオが苦戦している行方不明者捜索を、彼女はたった一人で成し遂げていたのだ。
どれほど根気のいることだっただろう。
ーー目的地のオッティモは、キッチン・かまどから歩いて四十分ほどの場所に店を構えている。
道行く人々に聞きこみをしながら歩いていくと、目的地のオッティモが見えてきた。
暖かみのある石造りの店は、カジュアルでアットホームな印象を与える。
「マオ、あそこがオッティモだ」
「おいしいピザのおみせですね!」
店の前に来たヤモとマオは顔を見合わせて頷くと、扉を開けた。
カランカランと、涼やかな音が鳴る。
音に反応してお盆を持った給仕服姿の女性が振り返った。
「いらっしゃいませー…あら!ヤモちゃん、お久しぶり!まぁ!かわいい子もご一緒なのね!」
三角巾をつけたゆるやかな茶髪に柔らかに垂れた茶色の瞳。まろやかな顔にはおっとりとした笑みが湛えられている。
ほんわかとした口調は綿菓子のようだ。
「はじめまして、マオです!」
「マオちゃんっていうのね!初めまして、わたしはハウメア・リプトンといいます。よろしくね!」
ぺこりとお辞儀をしたマオに、オッティモ店主の妻・ハウメアは柔らかな眼差しをさらに深めた。
「今日はどうしたの?お食事?」
「今日は仕事で頼みがあって来たんだ。開店したばかりで忙しい時にすまないな。オティも呼んでもらえるか?」
「あら、お仕事のことなのね?分かったわ、ちょっと待ってね!オティ!」
ハウメアは厨房の方に向かって声をかけた。
すると、厨房からゆっくりとコック服を身に着けた人物が姿を現す。
つるりとした頭に上に伸びる長い耳。浅緑色の肌。窪んだ目は怖そうに見えるが、その奥にある小さな黒スグリ色の双眸は優しい色を帯びている。
大柄でがっしりとした体格をしており、盛り上がった筋肉はコック服の下からでも分かるほどだ。
この人物こそが、人気ピザ店オッティモの店主・オティである。
容姿が物語るように、オティはゴブリン族だ。
しかし、オティはゴブリン族の上位種であるホブゴブリンに位置する。




