60.立ち向かうマオ
60.立ち向かうマオ
「すべて、わたくし自身が決めたことです。お父様にはご迷惑はおかけしません」
プリシラの決意を込めた突き放すような物言い。
それが、いったんは消えかけていたジョセフの導火線に火をつけた。
「プリシラ!」
「あなた」
だが、ジョセフの怒りは爆発することなく背後からの声に鎮火される。
「大声で騒ぐのはおやめになって。プリシラ、あなたも落ち着きなさい。身体に障るわ」
ジョセフの背後に、厳しい表情の女性が立っていた。
ゆるく巻かれた淡金色の髪に深い青色の瞳。淑やかな顔立ちには憂いと心労が色濃い。
外出から帰ってきたからか、橙色の外出用ドレスの上には上着を身に着けている。
彼女の言葉は効果てきめんで険悪な雰囲気を断ち切ってしまった。
「セレナ…」
「お母様…申し訳ございません」
ジョセフの妻でありプリシラの母、セレナ・バートンは小さくため息をついた。
セレナはマオとヤモの前に歩み寄ると、深く頭を下げた。
「お見苦しいところを…私はセレナ・バートンと申します」
「いえ、こちらも非礼をお詫びいたします。私は、ヤモ、こちらは、マオ。お嬢様からのご依頼でギルドから参りました」
「マ、マオです…よろしくおねがいします…」
また怒鳴られるかと思ったのだろう、マオはおっかなびっくりといった様子だ。
そんなマオを安心させるように、セレナはマオの頭をなでると、優しい微笑みで応じてくれた。
「マオさんとヤモさんとおっしゃるのね、娘がお世話になります」
「なっ…セレナ!私は許さんぞ!」
「あなた、プリシラの考えを尊重しましょう」
妻に窘められたジョセフはプリシラを睨みつける。
「プリシラ、言いなさい。何を依頼したんだ」
「…お父様には関係ありませんし言っても理解なんてしてくださらないわ」
父親の眼光に臆すことなく、プリシラはそっぽを向いて答えた。
依頼に関してはマオとヤモに守秘義務があるため依頼者プリシラの許可なしに明かすことはできない。
たとえ、それがプリシラの両親であっても。
しかし、いかんせんプリシラの物言いがかなりの悪手だった。
ジョセフの神経を逆なでしてしまったのである。
プリシラの口調に、ジョセフは眉をつり上げてツカツカと靴を鳴らして進み出た。
今にもプリシラの頬を打ちそうな勢いだ。
「先程からその態度は何だ!父親に向かって―」
「だめです!」
ヤモとナターシャ、セレナが止めに入るより早くプリシラとジョセフの間に割って入ったのは、マオだった。
プリシラの腕の中から飛び出したマオは、彼女を守るように両手を広げてジョセフに立ちはだかる。
だが、やはり恐怖はあるのだろう。
マオのしっぽはブラシのようにボワッとふくらみ、小さな身体はふるふると震えていた。
「おしえないです!プリシラさまからのだいじなおねがいごとは、ほかのひとにはおしえないです!」
マオは懸命に声を張り上げる。
「プリシラさまは、だいじないらいにんさんです!いじわるをしたら、マオがゆるしませんよ!」
マオはたどたどしいながらも、小さな身体でファイティングポーズをとった。
その姿は誰よりも勇ましく見える。




