59.ジョセフ・バートン男爵
59.ジョセフ・バートン男爵
「お父様…」
部屋に怒鳴り込んできた人物に向けて、プリシラは硬く冷ややかな声で呟いた。
プリシラの表情は氷のように険しい。
「プリシラ、私たちが留守の間に何を勝手なことをしている!ナターシャ!お前がいながら、なぜ許した!」
「旦那様!申し訳ございません!私の責任でございます!お嬢様とこの方達には何一つ非はございませ…」
「言い訳をするな!!」
ジョセフ・バートン男爵。
プリシラの父親は、怒りがおさまらないらしく怒声のボルテージがさらに上がっていく。
清潔感のある茶金色の髪は僅かに乱れ、鉄紺色の目はつり上がっている。
元来からであろう不機嫌そうな顔は茹でられたように真っ赤だ。
「どこの者かも知れない奴らを屋敷にいれるとは、お前達は何を考えているんだ!!」
「マ、マオたちは…」
「黙りなさい!!」
「ぴっ!」
震えながらも自己紹介をしようとしたマオを、ジョセフはにべもなく怒鳴りつけた。
マオは肩を震わせてさらに耳を下げて縮こまる。
そんなマオをプリシラが守るように抱きかかえてくれた。
マオはプリシラにくっついたままオッドアイの双眸は不安気に潤ませている。
マオは、ジョセフに対して挨拶となぜここにいるのかの説明をしようとしただけだ。
ぶちっと、ヤモの頭の中で太い紐がちぎれるような音がした。
ヤモはマオとプリシラを庇いつつジョセフの前に進み出ると、ジョセフを琥珀色の瞳で見下ろした。
「な、何だ!君は…!」
威勢良く声を荒らげようとしたジョセフは、ヤモに見下されて言葉を詰まらせた。
怒りでヤモの姿を視認していなかったのだろう。
ヤモのしなやかに引き締まった身体は、服の下からでも分かる玉鋼のような筋肉に覆われている。
琥珀色の瞳はリザードマン特有の威圧感を持ち、口を開けばノコギリより鋭い牙がのぞく。
「…非礼はお詫びいたします。私はヤモと申します。こちらはマオ。我々は、冒険者ギルドから参りました。お嬢様からご依頼をいただき、こちらにお邪魔させていただいた次第です。身分の方は、ギルドに問い合わせていただいて結構です」
「冒険者、ギルド…?」
ヤモの静かな迫力とギルドというワードに怒りが削がれたのが、ジョセフの態度が徐々に弱まっていく。
(非礼も何も、お前が聞く耳を持たなかったからだろう)
ヤモは心の中で、ひそやかな悪態を吐き捨てる。
頭ごなしにマオを怒鳴りつけた上に怖がらせて怯えさせた。
何よりもそれが一番許せない。
ヤモがジョセフに睨みをきかせていると、プリシラが凛然と援護する。
「お父様、お二人に失礼なことをおっしゃらないで。それに、ナターシャは何も悪くないわ…!」
「お、お嬢様…!」
「大丈夫よ、ナターシャ」
凛とした微笑みでナターシャを制止させたプリシラは、ジョセフを見据えた。




