56.未熟だけどたしかな愛
56.未熟だけどたしかな愛
「こんなことを話すと、軽蔑されてしまうかもしれませんが…」
「お嬢様…そのことは…」
「ナターシャ、こうして依頼を受けてくださったお二人には包み隠さずお話したいの」
案じ顔のナターシャに微笑みかけ、プリシラは意を決したように続ける。
「わたくしのお腹には…ニックとの子供がいます…それが、ニックが解雇された理由です」
「あかちゃん…」
マオがぽつりと呟いて頷く。
丸い双眸はプリシラの腹あたりを見つめている。
そういうことか、とヤモは納得した。
なぜ、貴族令嬢が生まれも育ちも身分も違う庭師見習いの少年を探すのかが疑問であったが、これならば合点がいく。
考えてみれば微かなシグナルはあったのだ。
プリシラが身に着けているのは、通常のインドア・ドレスよりも締めつけのない形をしており、飲んでいたのは妊娠中でも飲むことができるルイボスティー。
「ニックさんは、どんなひとなのですか?」
「ニックは、とっても頑張りやなんです…!明るくて、見習いだけど庭師としての腕前も良くて!みんなに愛されて話もおもしろくて…」
マオからの問いかけに、ニックとの思い出の軌跡をたどるかのように、プリシラはとても愛おしそうに微笑んだ。
「わたくしが落ち込んでいるときは励ましてくれて…そうしているうちに、いつの間にか彼に惹かれていました…二人で約束したんです、結婚しようって…」
プリシラは優しい手付きで、慈しむようにして自らの腹をなでる。
「この子を授かった時、とっても嬉しかった…。ニックもすごく喜んでくれて、二人で両親に伝えようとしたんです。でも…伝える前に知られてしまい…妊娠の症状が出れば気付かれて当たり前ですよね」
プリシラの白い美貌に淡暗い翳がさす。目には涙が浮かんでいた。
「事情を知った母は、ニックとの結婚を理解してくれましたけれど…父は絶対に認めてくれませんでした。父はニックの仕事ぶりも人柄も褒めてくれていたのに…ひどく彼を怒鳴って解雇してしまったんです…住み込みだったこの家からも追い出して…ニックのお母様まで呼び出して怒鳴りつけました…わたくしがどんなにやめてと言っても、聞いてくださらなかったわ…」
ヤモはプリシラの気持ちもそうだが、彼女の父親の気持ちも慮った。
軽率とはいえ、プリシラとニックが互いを想い愛し合う気持ちは紛れもない真実。
しかし、娘を大切に思う父親にとってはニックの仕事ぶりや人柄は関係ないのだ。
プリシラに理解を示した母も、複雑な胸中と心労を抱えいる可能性がある。




