53.バートン邸
53.バートン邸
目的地のバートン男爵邸は、思った以上に閑静な場所に居を構えていた。
邸宅も貴族らしからぬ、華美からは遠い質実剛健な造りをしている。
庭園の花々や木々は丹精込めて手入れをされているのだろう、奥ゆかしく美しい。
二階建ての邸宅の正面には堅牢な門と屈強な男性の家人が二人、護衛をつとめている。
加えて、周囲は壁に囲まれており防犯面は抜かりがない。
「こ、こんにちは!ギルドからまいりました、リエゾンのマオとヤモです。プリシラさまからごいらいをうけたのでおあいしたいです」
マオの自己紹介は完璧だった。ヤモとの約束も一生懸命に守っている。
(上出来だ、マオ!)
ヤモは心の中で力強くガッツポーズした。
「プリシラお嬢様からお話は伺っております。どうぞ、お入りください。ただいま迎えの者がまいりますので、こちらで少々お待ちください」
話が通っていたからか、家人はスムーズに門を開けてくれた。
時間を置かずして、邸宅の扉が開きメイド服を身に着けた若い女性が駆け寄って来る。
金髪を丁寧にまとめ上げ、すっと背筋の伸びた涼やかな雰囲気の女性だ。
もう一人の護衛の家人がメイドを呼んできてくれたのだろう。
「ご足労いただきありがとうございます。マオ様とヤモ様ですね。私、プリシラ様の専属メイドを務めさせていただいております、ナターシャと申します。どうぞ、こちらへ」
プリシラの専属メイド・ナターシャは丁寧に頭を下げ、ヤモとマオを中へと案内してくれた。
邸宅内は静かな湖畔を思わせる清雅な装飾や家具に彩られている。
ヤモとマオを案内するナターシャは、一階の奥の部屋の前で立ち止まった。
ナターシャはドアをノックし、中にいる人物へ向けて声をかけた。
「プリシラお嬢様、ギルドよりマオ様とヤモ様がおいでになられました」
「お入りいただいて」
ドアの向こうから聞こえたのは愛らしいながらも凛とした少女の声。
「失礼しいたします」
ドアを開けたナターシャ、はヤモとマオを室内に促し入れた。
「依頼を受けていただいて感謝いたします。わたくしが、プリシラ・バートンです」
瀟洒な椅子に腰をかけていた少女が立ち上がる。
茶金色の巻き髪に深い青色の瞳。チャーミングな顔立ちはどこか憂いと張りつめた色を帯びていた。
目の下にはうっすらとだが、隠しきれないクマができている。
身に着けているゆったりとした水色のインドア・ドレスは美しい容姿によく似合っていた。
「は、はじめましてプリシラさま。リエゾンのマオです」
「私は、ヤモと申します」
「よろしくお願いいたします。どうぞ、おかけになってください」
淡く微笑んだプリシラは、円卓を挟んで自身の向かい側にある二脚の椅子にヤモとマオを座らせた。
マオの椅子にはクッションがのせられており、優しい気遣いが感じられる。
「ナターシャ」
「かしこまりました」
プリシラの一言で、ナターシャが滑らかな動作で部屋を退出する。
ややあって、ドア向こうからカチャカチャと何かを運ぶ音が聞こえきた。
ドアが再び開き、ナターシャと二人のメイドがティーカートを押して入室してくる。




