38.悪夢を追い払うもちもち体操
38.悪夢を払うもちもち体操
「…朝か?」
ヤモの問いを証明するかのように、差し込む朝日が室内に光の軌跡を伸ばしている。
普段ならばきっちりと覚醒できるのだが、今日は寝起き特有の呆けたような感覚が残っていた。
悪夢の余韻を引きずったまま起きる不快感もない。夢を見たかもどうかも曖昧な気がする。
はて?と考えていると、
「もっちもっち!」
窓の外から、すこぶる元気な声が部屋まで聞こえてきた。
靄がかっていた頭が、一気に覚醒する。瞬間的に、確実に夢は見ていたことも自覚するが、それより
も。
「もっちもっち!もっちもっち!」
悪夢をかき消した声が現実でも聞こえてくる。この声は。
ヤモは、ソファから起き上がってカーテンと窓を開けた。
「もっち…あ!ヤモおねえちゃん、おはようございます!」
やはり、マオだった。マオの掛け声が夢の中まで聞こえてきていたのだ。
マオはもちもち体操の途中だったのか、腕を上げた状態でヤモがいる部屋を見上げている。
マオの側にはジーナがいてもちもち体操を見守ってくれていたようだ。
「おはよう、ヤモ!マオちゃん、もちもち体操上手なのよ」
「マオ、がんばります!ジーナおばちゃん、ヤモおねえちゃん、みててください」
気合いを入れ直したマオは再び体操を再開した。
体操にかかせないもちもち体操の歌も忘れずに口ずさんでいる。
「げんきをだしてもっちもっち
あしたはあしたのかぜがふく」
右足をぷらぷら。
「ふかなきゃかぜをふかせばいい
おかおをあげてもっちもっち」
左足をぷらぷら。
「それ!もっちもっちもーちもち!
それいけそれいけもちもちもちもち!」
両手を上げてジャンプ。
道行く人々は、マオを物珍しそうに見やっていく者もいるが大多数の人々が、微笑ましげな視線をマオに向けていた。
人々のこの反応こそがカルディア王国の特徴ともいえる。
カルディア国民は柔軟な思考と寛容な心を持っており、ヤモやマオのような亜人種に対して差別や偏見がないのだ。
これは、カルディア王国現国王・シリウス・ペンドラゴンの意志と人望、政策が強く反映されたことによる賜物といえよう。
とはいえ、亜人種に対して排斥を隠さない者たちもカルディア王国の中にはいる。
だか、シリウス・ペンドラゴン国王と彼の意志を汲む国民たち自身が団結し、盾となり剣となり排斥派を退けているのだ。
国民から圧倒的な支持を受ける国王に、わざわざ逆らってまで悪感情を押し通そうとする者もいないだろう。




