37.悪夢
37.悪夢
「穢れ者め」
また、この夢だ。
故郷を捨ててからというもの、毎晩欠かさず見続けている、胸糞悪い夢。
「この、穢れ者め!」
「一族から出ていけ!!」
「お前なんて生まれてこなければよかった!!」
穢れ者!穢れ者!!穢れ者!!!!
幾人もの、ヤモと種族のリザードマンたちが幼いヤモを指差し罵声を浴びせている。
老若男女問わずヤモと同じ年くらい、ヤモより幼い子供までが嫌悪に顔を歪ませていた。
罵倒する者たちの中には、ヤモの両親。ヤモの兄も加わっていた。
滑稽なことに、当の両親と兄こそが率先してヤモを罵っている。
しかし、同じ一族といっても両親と兄を含めた他のリザードマンたちとヤモには明確な違いがあった。
それは、全身を覆う鱗の色と瞳の色である。
両親と兄、他のリザードマンたちは皆、沼のような青緑色の鱗と鈍茶色の瞳に対し、ヤモだけは銀色の鱗に琥珀色の瞳だった。
星を集め連ねたように輝く銀色の鱗と神秘的な琥珀色の双眸。
ヤモのこの容姿が、穢れ者のゆえんだ。
―穢れ者。
故郷を出るまで何度も何度もかけられた、ヤモを排斥し罵倒するための言葉。
理由はひどく単純でひどく愚かしいものだ。
自分たち一族とは異なる容姿を、ヤモが生まれ持ってしまったから。
この夢を、ヤモは朝日を迎えて眠りから目覚めるまで繰り返し見せられる。
初めのうちはうなされもしたが、今は慣れてしまったからか心が荒立つこともない。
例えるならば、大画面の前に強制的に座らされて見たくもない過去の映像を延々と垂れ流されている感覚だろうか。
一晩かけて見た後の目覚めは、それはもう最悪の一言に尽きる。
ヤモが朝食に紅茶を一杯だけなのは、この夢が主たる原因だ。
寝ても眠った気がせず、目覚めた後はまったくといって食欲がわかない。
心臓は早鐘を打ち、締めつけられたかのような胃袋は食事を徹底的に拒絶する。
このことをマクリール夫妻に言えば、二人は我がことのようにヤモを心配するだろう。
だからこそ、言えない。余計な心配はかけたくないからだ。
この時も、ヤモはいつも通りに幼い自分が罵倒され続けるのを、うんざりとした気持ちで眺めていた。
今の自分とは違い、幼いヤモは罵詈雑言を受け止めきれずに琥珀色の瞳から大粒の涙をこぼしながら耐えている。
(泣くな…こんな奴ら相手にすることはない)
ヤモは、泣きじゃくる幼い自分に話しかける。
当然ながら返事などない。それもそうだ、夢なのだから。
朝まであと何時間だろうか。慣れたとはいえ、これが目覚めるまで続くのはさすがに億劫だ。
かといって抗う術はない。ヤモはいつものように諦めて朝日と目覚めの時を待つ。
だが、この日はヤモが繰り返すいつものようにとは異なっていた。
「もっちもっち!」
舌っ足らずな幼い声が、悪夢の中いっぱいに響き渡ったのだ。
ぎょっとするヤモにお構いなしに声は響き続ける。
「もっちもっち!もっちもっち!」
さらに、幼い声が響くたびにヤモの視界を占領していた悪夢が霞むように押し消えていく。
「もっちもっち!」
その瞬間、ヤモは目を覚ました。同時に、僅かに開いたカーテンの隙間から差し込む朝日が、白く目にしみる。




