36.愛しき我が娘たち
36.愛しき我が子たち
コンラッドが肉をしまい終えると、ジーナは鼻歌まじりにミルティアの鍋を混ぜていた。
「ジーナ、何だかご機嫌だな」
長年連れ添っているコンラッドには、ご機嫌な時のジーナの癖がよく分かる。
決まって同じ鼻歌を歌うのだ。
柔らかなリズムの、愛する者へ贈るような鼻歌。
指摘されたジーナは、バレたかとばかりに笑った。
「うふふっ…たしかにね、ご機嫌かも。こんなこと言うと気味悪がられるかもしれないんだけどね…」
ジーナは、やや逡巡しながらも思いを馳せるように続ける。
「アストレア様のみもとに逝ってしまったあの子たちが…サーナとニーナが、姿を変えて帰って来てくれているみたいに感じたのよ」
女神・アストレア様のみもとにいったあの子たち。
―サーナとニーナ。
産声を上げることなく生まれてすぐに逝ってしまった、双子の娘たち。
コンラッドとジーナに出来たのは、物言わぬ我が娘たちを抱きしめ、手厚く弔い、名前を贈ることだけだった。
「なんてね!ね、気味が悪いでしょ?ヤモとマオちゃんに言ったら嫌がられそう。マオちゃんは、今日会ったばかりだが、なおのこと…」
「そんなことねえさ…ヤモもマオちゃんも、あの子たちは優しい子だからよ…」
コンラッドもジーナと一緒だ。ヤモとマオに、亡くした我が娘たちを重ねていた。
「うん…そうね。でも、あの子たちには、このことは言わないわ。ヤモとマオちゃんが、ここにいてくれるだけで幸せだもの。何だか、人生にもっと張り合いが出てきた感じがするのよ!」
湿っぽくなりそうな空気を払うようにジーナがさっぱりと笑う。
「さあ、コンラッド!仕込み、もう一踏ん張り頑張りましょ!」
「おうよ!ヤモとマオちゃんが、しっかり栄養つけて、仕事を頑張れるようにしてやらねえといけないからな!」
ジーナとコンラッドは顔を見合わせて、ニカッと笑うと再び、夜遅くまで仕込みを続けたのだった。




