14.マオのおはなし
14.マオのおはなし
魔力も戦う術もなく、さらには誘拐されそうになった経験をしたというのにまるで危機感を感じさせない。
冒険者ギルドマオまで連れて来てくれた村人が誘拐未遂のこと知れば、確実に卒倒するだろう。
無事に冒険者ギルドまで送り届けた後に、マオが攫われそうになっていたとは夢にも思っていないはず。
今回、偶然にもクレイドルが誘拐の場面に出くわしたから良かったものの、もしもクレイドルがおらずそのまま攫われていたとしたら…マオはどんなひどい目に遭っていたが分からないのだ。
マオを攫おうとしたはぐれ冒険者とは、ギルドに所属していない冒険者のことを示す。
その実情は、冒険者とは名ばかり。
手のつけられない荒くれ者や非合法なことに平気で手を染める者たちだ。
はぐれ冒険者たちは、ケット・シーの希少性を知っていたのだろう。
マオはミルティアジュースを飲み干したからか、空っぽになったカップの中を名残惜しそうに覗き込んでいる。
悪く言えば呑気、まるで危機感がない。良く言えばマイペース。
ヤモは頭を抱えたい気分になった。はっきり言って難儀な仕事依頼だ。
(…まったく)
無邪気なマオの様子にヤモはこぼしそうになった苦い溜め息を、ひっそりと消化した。
「マオさん、おかわりはいかがですか?」
気を利かせたリーシャがマオに目線を合わせて聞いた。手に持ったガラスポットには乳白色のミルティアジュースでたっぷりと満たされている。
ミルティアジュースは、ミルティアという花を煮詰めて作る栄養価たっぷりのこっくり濃厚なジュースだ。
料理やお菓子作りにも使われており、栄養価が高いため母乳の代わりとして、赤ん坊に飲ませることも出来る万能ジュースである。
「いいんですか?マオ、ミルティアジュースだいすきです!」
「もちろん!いっぱいあるのでたくさんおかわりしてください」
「ありがとうございます!」
マオは嬉しそうにカップをリーシャの前に差し出した。
カップに注がれていくミルティアジュースにマオは感嘆の声を上げた。
三角耳はぴこぴこと動き、双眸はとろけるように輝いている。
マオがミルティアジュースを一口飲むのを待ってからヤモは話しかけることにした。
リィンたちには事情は伝え済みかもしれないが、依頼を受けるとしたらマオについて知っておきたい。
「マオ。王都に来る前のことを教えてくれるか?」
「おうとにくるまえ…あ、まえのおうちのことですね?マオはノルンのもりで、ソフィおばあちゃんとくらしてました」
ノルンの森は四大貴族の一つゼピュロス伯爵家が治めるクロリス地方にある広大な森のことである。
もうひと口ミルティアジュースを飲んでから、マオはカップをテーブルに置いて話を続けた。




