13.話の続き
13.話の続き
「話を、進めよっか」
悲喜こもごもな状況下を、フレデリカの笑顔と一言が仕切り直した。
「はい!」
誰よりも元気に返事をしたマオが、ソファによじ登りヤモの隣に着席する。ちょこんと座ったマオはヤモを見上げて、にこっと笑った。
胸の底にまで届く屈託のない光のような笑顔だった。何だかこそばゆい。
ヤモは眼光とや牙、顔立ちのせいかその気がなくても幼子を怖がらせてしまうことがよくある。
わずかに視線が合っただけで大泣きする幼子もいるほどなのだ。
だが、珍しいことにマオはヤモを怖がる様子は微塵もない。
マオはリュックを下ろしてポンチョを脱いで畳むと、リーシャが出してくれたミルティアジュースを手に取って嬉しそうに飲み始めた。
ポンチョに隠れて見えなかったがマオの背中は黒色と白色に分かれた毛並みをしている。
不意に、反対のソファ側から視線を感じた。
嫌な予感がして視線を辿る。
辿った先ではシエルが仏頂面で、ヤモをじとりと見つめていた。飴風船のように頬を丸く膨らませて明らかに不満げだ。
じりじりとしたジェラシーたっぷりの視線がヤモをこれでもかとばかりに刺してくる。
恐らく、マオの隣にヤモが座っているのが不服なのだろう。
指摘したら面倒なことになりそうなので、ヤモはそっと視線をそらして気付かないふりをした。
「ヤモ、改めて紹介するよ。彼女が、マオ。君には、マオが独り立ちできるまでの指導教育と護衛をお願いしたい。マオは、今日冒険者登録をした初級冒険者なんだ」
フレデリカに改めて紹介されたマオはミルティアジュースを飲むのを中断し、ぺこりと頭を下げる。
「今日、登録したばかり…?」
「実はね、マオは昨日王都に来たばかりなんだ」
ここから話を引き継いだのはリィンだ。
「故郷の側にある、コルト村の方に王都まで送って来てもらったそうなんだ。昨日の昼頃に王都に到着して、村の方から冒険者ギルドの前まで送り届けてもらって別れた後に、はぐれ冒険者にさらわれそうになったんだよ」
「さらわれそうになった!?…よく無事だったな!」
「ちょうどその時に、僕たちもギルドに戻ってきてね。偶然にも、はぐれ冒険者がマオを抱えていくところに僕たちが出くわしたんだ。怪しいと思ってすぐにそいつらを捕まえて、マオを保護したわけだよ」
「昨日はさ、軽く事情を聞いてからマオにはギルドに泊まってもらって、今日の朝に冒険者登録という運びになったんだ」
リィンに続いてフレデリカが付け加える。
「最初は、僕たちクレイドルが指導教育と護衛をしようかってなったんだけど、夜になってボレアース侯爵家から、デスワーム討伐依頼が来てこの後すぐに行かないといけなくなったんだ」
ボレアース侯爵家とは四大貴族の1つ。オシリス砂漠を有するバステト地方を治めている。
砂漠に潜むデスワームは体長二十mにもおよび群れて襲撃をしてくる魔物だ。
「マオはんを、そないな危ないとこ連れて行かれませんやろ?とはいえ、宿場で待っていはるのもそれはそれで危ないやろし」
葛の葉は流麗な眉を八の字に下げ、蘭丸は困り顔で腕をくんだ。
「デスワームは群れで出てくるしな。長期任務になりそうなんだよ。それじゃ、マオの指導教育も護衛もおろそかになっちまう。それで、全員で話し合って」
「ヤモにお願いしようってなった。それと…」
そこまで言い終わると、シエルは言葉を淀ませながら続ける。
リィンたちやフレデリカ、リーシャもどうしたものかという表情だ。
「ヤモ、オッドアイのケット・シーは魔素量が強いことは知ってるでしょ?」
「ああ、マオもそうなんだろう?」
「うん、そのはず。でも、マオは魔力を持っていないんだ。だから、マオからは魔素を感じない」
「魔力を持っていない…?」
聞き返すヤモにシエルは沈痛な様子で首肯する。魔力を持たないケット・シーは初耳だ。
だが、魔法と魔力に長けたハイエルフのシエルが言うのだから事実なのだ。
「だから、指導教育に加えて護衛が必要なのか」
そういうことか、とヤモは納得した。
隣では、マオが無邪気にミルティアジュースに夢中になっている。よほど気に入ったらしい。




