128.失いたくない日常
128.失いたくない日常
身体はポカポカと温まり、気怠さがすっきりと覚めていくようだ。
ヤモがスープに舌鼓を打っている側で、マオはあーんと大きな口を開けてベーグルたまごサンドを頬張る。
両頬を膨らませてもぐもぐとベーグルサンドを堪能するマオが微笑ましく、ヤモは笑みを浮かべた。
「ヤモおねえちゃん」
ミルティアジュースを一口飲んだマオがヤモを見上げてくる。
「ん?マオ、どうした?」
「マオ、ヤモおねえちゃんといっしょにごはんをたべれてうれしいです」
屈託のないマオの笑顔にヤモは面食らって照れ臭くなってしまう。
ヤモと一緒にご飯が食べれて嬉しいとマオは思ってくれている。
ともに食事をするのはごく当たり前な日常の一つのはずだ。
それでも、マオは嬉しいと喜んでくれた。
ヤモの胸にしみじみと柔らかくくすぐったい感覚が広がっていく。
一族も故郷も捨て去り戦士になった時、ヤモは自分の命に価値を見出すこともやめた。
どうせ穢れ者の命だ。
ありったけの依頼をこなし、その最中に死んだとて構わないと割り切ってさえいた。
冷静に考えれば何と卑屈で自分本位な思考だろう。
けれど、今は違う。
ラミア洞窟で、ヤモは死にたくない。死ねないと心から願った。
やすやすと命を手放してしまえばもう戻れなくなってしまうからだ。
マオと、そしてマクリール夫妻やリィンたちやフレデリカ、リーシャ。クレイドルのメンバーたち。ヤモを想ってくれる大切な人々とのささやかな日常が無くなってしまう。
今は、その日常を失うことが身震いするほど怖い。
だからこそ、ヤモは万感の思いをこめてマオに言葉を返した。
「私もだ。マオと一緒に食べれて嬉しいよ」
「ヤモおねえちゃんもうれしいのですね!マオとおすそろいです!」
マオは宝石よりも綺麗な双眸を煌めかせて幸せそうに微笑んだ。
ヤモはマオに頷き返しながら決意する。
もう二度と、命を価値を見い出すなどと自身の命を軽んじることはしない。
ささやかだがかけがえのない人々との日常を守るためにも。




