126.思案の水底に
126.思案の水底に
「みんな、先に食堂に行っていてくれるかな?マオのご飯はこっちに運ぶからさ」
リィンの言葉にシエル達は顔を見合わせたが、納得したのか首肯すると部屋を退出していった。
室内は打って変わって静かになる。
「…ヤモおねえちゃん、リィンおにいちゃん、ごめんなさい」
気まずいような静寂の中でマオがぽつりと呟く。
謝るマオにリィンはきょとんとして首を傾げた。
「マオ、どうして謝るのさ」
「マオはわがままをいいました…シエルおねえちゃんたち、いやなおきもちになってます…」
「うーん、わがままかぁ…」
リィンは顎に手を当てて考えるように言ってから、片膝をついてマオと視線を合わせる。
「マオはさ、ヤモをひとりぼっちにしたくなかったんだよね。ラミア洞窟の時みたいに、ヤモが起きなくなっちゃうかもって思ったんじゃない?」
マオは頷く代わりに双眸をパチクリさせた。
リィンは柔らかに微笑んでマオの頭をなでる。
「だったら、それはわがままなんかじゃないよ。ちゃんとした、マオの考えで意志だからね」
「でも、マオはおおきなおこえだったからシエルおねえちゃんたちはおこったかもしれません。ヤモおねえちゃんとリィンおにいちゃんもこまらせました…」
「シエル達は怒ってなんかいないよ。ただ、マオのことが心配だっただけさ。ヤモも僕だってそうだよ。ね、マオ」
リィンは不安気なマオを励まし諭すように語りかけていく。
「マオ、どうしてマオはこう思ったのかちゃんと理由を伝えればいいんだよ。そうしたら、みんな分かってくれる。言葉が一歩通行になっちゃうとお互いの気持ちまですれちがっちゃうからね」
「ちゃんと、りゆうをつたえる…」
マオはゆっくりとリィンから教わったことに思いを巡らせるように呟く。
それから、マオはリィンを見つめてしっかり強くと頷いた。
「リィンおにいちゃん、マオわかりました。マオ、シエルおねえちゃんたちにもちゃんとりゆうをつたえて、ごめんなさいしてきます」
「うん、えらいねマオ!それじゃあ一緒シエル達のところに行こうか!」
「はい、リィンおにいちゃん!ヤモおねえちゃん、マオいってきますね」
マオは勇ましく右腕を上げるとヤモを見上げる。
「ああ、いっておいで。リィン、マオを頼んだ」
「もっちろん!まかせてよ!」
ヤモに見送られたマオは元気いっぱいにリィンと一緒に部屋を出ると食堂へ走っていった。
マオとリィンの足音が遠ざかり、部屋には静寂が訪れる。
マオが元気を取り戻した様子にヤモは一安心した。
リィンのおかげだ。武骨なヤモには出来なかっただろう。
自分にも気の利いたことを言えれば良かったのだが、性格上難しいことはヤモが一番分かっている。
だが、指導係としてマオを導く役割を担っているというのにこの体たらくは情けない。
思えば、ここまで指導という指導も出来ていなかった気がする。
これからマオは広い世界を学び知識を深めて成長し、リエゾンとして独り立ちしていくだろう。
「独り立ちか…」
ヤモは無意識に独り言ちた。
ぽとりと溢れた独り言が胸の中に落ちていく。
不意に、どこか物悲しいような空虚な感覚が押し寄せてくる。
近い将来、マオが成長して独り立ちすることになればヤモは必要なくなる。
なんてことはない。指導係と護衛の任が終わり、以前のようにヤモはフリーランスの孤高の戦士とやらに戻るだけだ。
たったそれだけのことなのに。
妙に、しんみりとした感情が靄のように広がっていくのどうしてだろう。
唐突に、ラミア洞窟へ向かう途中の野営を光景を思い出す。
マオと一緒に食べた干し肉サンドにスピカフィッシュの串焼き。
どれも一人で食べれば味気ないものばかりだ。
でも、マオはおいしいと心から喜んでくれた。
「…マオと食べた干し肉サンドもスピカフィッシュも、うまかったな」
マオが独り立ちした時、自分はあの干し肉サンドや
焼きスピカフィッシュをおいしいと思えない様な気がする。
ヤモはゆるやかにベッドへ倒れ込むと、目を閉じて思案の水底に身を沈めたのだった。




