123.法改正
123.法改正
亜人種排斥の思想は身分を問わずじわじわと浸透し、平和に見えるカルディア王国に取り返しのつかない分断を生じさせてようとしている。
「エウロス公爵家は監督するラミア洞窟への侵入を許してしまっていますからね、バートン男爵への私怨も含めて忸怩たる思いがあったのでしょう」
オリバーは眉根を寄せて腕を組んだ。口調には苦々しげなトーンが含まれている。
無理もない。
なぜならば、四大貴族の中でも名門のエウロス公爵家は亜人種に対して排斥派に近い思想を隠していないからだ。
現国王の政策に好意的でないのならば、国王と親交の深いバートン男爵を敵視するのも頷ける。
「当初は、ヤモさんとマオさんがラミア洞窟内へ潜入したことはエウロス公爵家は知りませんでした。公爵家がラミア洞窟に到着する前に、お二人は王都のギルドに転移していましたからね。しかし、エウロス公爵家は洞窟内を確認しバジリスクの死骸を発見しました。そして、プリシラ嬢によるニック・ヨハンソン君の捜索依頼とヤモさんとマオさんが彼の捜索を行っていたことを知り、プリシラ嬢との関係上、お二人がラミア洞窟へ侵入しバジリスクを討伐したのではないかと疑いを持った公爵家はヤモさんとマオさんに対して聴取のための身柄引き渡しを要求してきたのです」
「身柄の引き渡し…」
ヤモの背中に氷の粒のように凍てついた悪寒が流れていく。
聴取などと聞こえは良いが、実際は丁寧に聴取するつもりなどないのは想像に難い。
領地にあるラミア洞窟へ侵入されたのだ。管理・監督するエウロス公爵家にとっては面子を潰されも同然である。
さらには、バートン男爵令嬢の依頼が関わっていたとなればなおさらだ。
情報を聞き出すためならば亜人種であるヤモとマオには身体的、心理的な方法も含めてどんな手でも使うはず。
ヤモやマオの言い分など、はなから聞く耳も持たないだろう。
ヤモならば拷問されたとて耐えられる。
しかし、幼いマオがヤモと同じように耐えられるはずがない。
エウロス公爵家があらゆる手を使うつもりならば、ヤモは強硬な手段で対抗してでもマオを守る。
知らず知らずのうちにうつむくヤモの双眸に暗い焔が灯った。
「ヤモさん」
我知らずのうちに臨戦態勢に入っていたヤモに、オリバーが穏やかな声で呼びかける。
弾かれるように顔を上げると、ぱっちりチャーミングな蒼氷色の双眸と目が合った。
「ヤモさん、悲観することは何もありませんよ。安心してください。最初にお伝えしたように、ヤモさんとマオさんは私の庇護下にあります。いかにエウロス公爵家といえど手は出せないのですよ。そもそも、ヤモさんとマオさんがいたのは王都の冒険者ギルド。洞窟にはバジリスクの死骸があっただけで、お二人が潜入をした証拠もありません。そ・れ・に…!」
オリバーは言葉を切ると、ウィンクをして人差し指を左右にふりふりと振る。
「現在、法改正の真っ最中です。禁足地保護法を撤廃するためのね」
「禁足地保護法を撤廃…そのようなことが可能なのですか?」
「ええ、もっちろん!本来ならば、法とは時代とともに移り変わらなければならないものですから!今は、法案を提出し協議の最中なのですよ」
聞き返したヤモにオリバーは心強い笑みを浮かべて応えてくれた。




