118.生還
118.生還
ー眩しい。
暗闇なのに、なぜかそう感じた。
真っ暗な部屋のカーテンの隙間から陽光が差しこんでくる感覚だ。
眉間に皺を寄せながらヤモは瞼をゆっくりと押し上げた。
微かに目を開けた瞬間、さらに明るい光が眼球を刺激してくる。
徐々に目が慣れてくるとヤモの視界に広がっているのは白い天井だと理解できた。
ヤモの部屋のものではない見知らぬ天井。
ふかふかのベッドの上で、ヤモは仰向けに寝かされていた。
身体にかけられた暖かなコンフォーターからは、ひかえめなカモミールの香りが漂ってくる。
自分は眠っていたのだろうか。
「ヤモ、目が覚めた…?」
朧気な意識の中を蕩っていたヤモの耳に、安堵がこめられた玲瓏な声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声だ。
ヤモはのろのろと首を動かして声の方に顔を向ける。
ぼうっとしているヤモをプラチナブロンドの美少女が柔らかな表情で見つめていた。
「シ…エル…?」
「一週間、ずっと眠っていたんだよ。覚えてる?ラミア洞窟で―」
「ラミア…洞窟…」
呟いた途端、靄がかっていた思考の蓋が解放され押し寄せるようにして記憶が蘇ってくる。
「マオ…!!」
全身の血の気が一気に引いていく。ヤモはバネ人形のように身体を起こしかけ、
「――っう!」
呻きながらあえなくベッドに身体を沈めた。全身が軋み激痛が駆け巡る。
「無理はしない!あちこち骨折していた上に背中の傷は特にひどかったんだからね!時間と日をかけて回復魔法を施してやっと傷が塞がったんだから」
ヤモにコンフォーターをかけ直したシエルは、安心させるように微笑むと自身の隣に視線を向ける。
「大丈夫。マオはここにいるから、安心して」
起き上がれないヤモは慌ててシエルの視線を追いかけ、ようやく安堵の息をつくことが出来た。
冷たく血の気が引き切った身体にほのかな温かさが戻ってくる。
「マオ、無事でよかった…本当に、よかった…」
シエルの隣には小型のベッドが置かれており、そこに身体を丸くして眠るマオがいた。
眠るマオからは健やかな寝息が聞こえてくる。
「ヤモの側を離れたがらなくてね…ヤモおねえちゃんと一緒にいるって聞かなかったんだよ」
シエルは慈しむようにマオ頭を優しくなでた。
ヤモは今度は慎重に上半身を起こし、マオの顔を覗き込んだ。
「みゃぅ…」
マオがもしょりと動く。閉じていた目が瞬かせながら開くとまだ眠たげなオッドアイの双眸が現れる。
「マオ…」
ヤモが声をかけると、マオはゆっくりと瞬きをしてから飛び起きた。
オッドアイの双眸はヤモを見つけた途端、あっという間に潤み大粒の涙が浮かび上がる。
マオは勢いよく、ぴょんっとベッドから飛びあがるとヤモの胸にしがみついた。
「ヤモおねえちゃんっ!」
「うわっ!」
ヤモは柔らかな衝撃を胸で受け止める。マオからはぬくぬくとした温かさが伝わってきた。




