116.断末魔の一撃
116.断末魔の一撃
その反動はヤモとマオを己の背中から振り落とすほどの力を持っていた。
「――っ、マオつかまっていろ!」
「はい!ヤモおねえちゃん!」
ヤモとマオは、抵抗の間もなく軽々と上へと放り出されてしまう。
しがみつくマオをしっかりと胸に抱きかかえたヤモは着地の態勢をとろうとする。
不意に、背後から禍々しい気配が襲ってきたのはまさにその時だった。
同時に空気を切り裂くような音。
振り返る間もなかった。
「うぁっ…!!」
ヤモの背中を鋭い感触が襲ったかと思うと、一瞬にして前方へと乱暴に押し出す。
茹で上がった腸詰めの皮が張り裂けるような音が響いた。
背中の皮膚と肉が弾けるようにして裂かれたのだ。
猛烈な熱と激痛と衝撃がヤモの背中を奔る。
裂けた傷口から勢いよく噴き出ていくのは鮮血。
息が詰まり胃のあたりから熱い塊がこみあげ、直後にはヤモは口から血を吐き出していた。
視界を舞い散る鮮血は、不覚にも優雅に舞い散る花びらのように見える。
「ヤモおねえちゃん!」
マオの悲鳴が聞こえた。
押し出されたヤモの身体はまっすぐに岩壁へと突き進んでいく。
このままでは正面から衝突する。
マオはヤモの腕の中にいるが正面からぶつかれば無傷ではすまない。
ヤモはとっさに身体を反転させて、自身の背中を岩壁側に向ける。
そのおかげで自らの背中に一撃を食らわせた存在を見ることができた。
ヤモに断末魔の一撃を与えたバジリスクは尻尾の先端から血を滴らせながらゆっくりと倒れていく。
死の直前にバジリスクはヤモに一矢報いたのだ。
(急所を砕かれても動けたのか…)
さすが古代から語り継がれる禁忌種だ。
そんなことをぼんやりと考えながら、ヤモは避けることも出来ずに岩壁へと背中から衝突した。
背中を切り裂かれた時の比ではない激痛を感じたと思う。
砕けるような音はヤモの身体の骨が折れる音だ。
けれど、すでに意識を保つのがやっとだったヤモにはそれらを理解するための思考は鈍っていた。
ヤモの身体は壊れたマリオネットのように力なく地面に落下していく。




