110.機転
110.機転
ヤモがポカンとして見ていると、マオはさくらんぼのドライフルーツをヤモに差し出した。
「ヤモおねえちゃん、これをにょろにょろのうしろにぽいしてください」
「バジリスクの、背後に投げればいいのか…?」
「はい!」
戸惑うヤモにマオは自信に満ちた表情で頷く。
逡巡していたヤモだったが、迷っている暇はないとばかりにさくらんぼのドライフルーツを受け取り、バジリスクの背後に向かって投げた。
さくらんぼのドライフルーツは淀みない放物線を描いて、バジリスクの背後に落ちる。
小さなドライフルーツだ。落下した際に聞こえる音も微細なはず。
「シュゥー…」
にも関わらず、バジリスクは音を聞き取るような反応を見せてから、ぬるやかに首を動かすと地面に向かって鼻孔を近付けた。
地面に鼻孔をすべらせたバジリスクはドライフルーツの元にたどり着くと少しだけ匂いを嗅いでから顔を背ける。
どうやらお気に召さなかったらしい。贅沢な奴だ。
バジリスクの挙動を観察していたマオが確信を得たかのように顔を輝かせる。
「やっぱりです…!」
「マオ、どういうことだ?」
「ヤモおねえちゃん、にょろにょろはおめめがみえていないです。にょろにょろはおみみとおはなでごはんをさがしてるんです」
「バジリスクは、目が見えていない…?」
呆気にとられて聞き返すヤモに対してマオは頷いてから続けた。
「さっき、にょろにょろはおめめをうごかさないでずっとおはなをじめんにくっつけながらごはんをさがしていました。マオ、にょろにょろはおめめがみえていないのかなっておもったんです」
「それで、ドライフルーツで試したのか」
「はい、それに、さくらんぼのドライフルーツはちいちゃいからおちたときのおともちいちゃいです。でも、にょろにょろはきづきました。だから、きっとにょろにょろは、おめめがみえなくてもおみみとおはなでごはんをさがせるんです」
マオの説明をヤモは驚嘆しながら聞き入っていた。
バジリスクの視力が機能していないという情報は古代史のどこにも記されていない。
かつての、長い歴史の中でバジリスクに挑んだ者たちは、俊敏な動きを前にしてよもやバジリスクが聴力と嗅覚だけを駆使して動いているとは思いもしなかっただろう。




