108.潜む者
108.潜む者
大岩の裏に隠れたヤモとマオは、息を殺して奇妙な音の発信源を辿った。
奇妙な音に悟られないよう注意深く探っていく。
すると、ヤモとマオが隠れている岩から離れた、向かって正面に行き着いた。
それはゴツゴツとした岩壁。見た目はこれといって特徴もない岩壁だ。
だが、音はその岩壁から聞こえてくる。
「シュゥー…シュゥー…シュゥー…」
紙をこすり合わせるような音。
心なしか、その音のボリュームが上がっていく。
最初は音だけだったはずがそこにじっとりとした息遣いが混じり始めた。
明らかに、何かの生き物の呼吸音だ。
「シュゥゥゥーッ…」
突然、音を放っていた壁が緩慢な動作でうごめき、壁から長い巨体が剥がれ落ちる。
巨体は滑るようにして地面に下りるとゆっくりとその身を起こした。
長さは十mはあるだろう。全身を埋め尽くす鉛色の鱗。切れ上がった目は白濁していながらも爛々と湿っている。
頭頂部には泥水を固めたような結晶が腫れ物のように突き上がっていた。
大きく裂けた口の中には牙が規則正く並び、二股に割れた細い舌がぬらぬらとした唾液が滴っている。
(あれは、いや、まさか…!?)
ヤモは慌てて岩に身を隠し、極めて小さな声でマオに伝える。
「マオ、あいつの目を絶対に見るな。声も小さくしてあいつに気付かれないようにするんだ」
「は、はい…ヤモおねえちゃん」
ヤモに言われた通りマオは声を潜めて頷いた。
「ヤモおねえちゃん、あのにょろにょろはなんですか?」
「あれは、バジリスクかもしれない」
「ばじりすく…?」
「古代史に載っている魔物だ。私も、実物は初めて見る…」
ーバジリスク。
古からの歴史に記されている禁忌種の魔物だ。
"かもしれない"。という表現になったのは古代史の知識と、描かれた想像図としては頭に入ってはいたが実物を目にしたことはなかったからである。
古代禁忌種と呼ばれ、存在さえ定かではない魔物。
(まさか、本当に存在していたのか…!)
古代禁忌種は眉唾物の存在だと思っていた。
しかし、その古代禁忌種がまごうことなく現実に存在している。
ヤモの背中を冷水のような汗が伝っていった。




