10.ケット・シーのマオ
10.ケット・シーのマオ
ヤモが見知った人物はこの四人まで。
さて、見知らぬ一匹はシエルに抱きかかえられて入室してきた。
丸い顔に三角の耳。鼻の両側はぷっくりとしており、そこにはぴんっと生えたひげが左右に十二本ずつ。
額と鼻梁を八の字で区切るようにして、毛色が二色で異なっている。
額からしっぽにかけては黒色。鼻梁から胸、手足としっぽの先端は白色。ピンク色の鼻の右側には黒いぶち模様。
毛並みはビロードのようにつやつやとしており、宝石のような丸い双眸は、右がハッカ色で左がたんぽぽ色をしていた。
身に着けているのは三角耳が付いた赤色のポンチョとキャメル色の小さなリュックを背負い、首からは白灰色の雫型をしたペンダントを下げている。
ヤモは思わず目を瞠った。
「ケット・シー…」
ケット・シーの存在は知っていたが実際に目にするのは初めてだった。しかも、左右の瞳の色が違うオッドアイ。オッドアイはケット・シー種の中でも魔力量が強く希有な存在だ。
ケット・シーは魔物属には分類されず妖精属に当てはまる。魔力を持ち魔法を使いこなしヒューマンの言葉を理解し話せるため、小さき賢者と呼ばれている。
しかし、美しい瞳やビロードの毛皮は悪辣な者たちや密猟者たちから狙われやすい。そのため、ケット・シーが外界に来ることは滅多にない非常に珍しいことなのだ。
ケット・シーは亜空間に独自のコミュニティを築き外界とは隔絶した状態で暮らしていると聞く。聞く、という表現は厳密に言うと、誰もケット・シーのコミュニティと交流出来ないからだ。
シエルの華奢な腕に大事そうに抱えられたまま、ケット・シーは無垢な双眸でヤモを見上げている。キラキラとした眼差しは興味津々といった様子だ。
抱きかかえているシエルはといえば、へにゃへにゃの表情でケット・シーの後頭部に頬ずりをしている。
高潔かつ神秘的なハイエルフらしからぬ表情だ。何だか見てはいけないものを見てしまった気がする。
(…うん、見なかったことにしよう)
心の中で頷き、ヤモは少し冷めてしまった紅茶を飲み干した。




