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神代の縁  作者: 榊 雅樂
第一章
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第七篇 聞いて話して

 ––––桜はすごいねえ。

 ––––さすが、本家の子だ。それに比べて、()()()は……


「!」


 竜也はそこで目を覚ます。息こそ切れていないものの、身体には変な汗をびっしょりとかいていた。体を起こし、思考を落ち着かせていると、部屋の外から母親の声が聞こえてくる。


「竜也、起きないと遅刻するよ」


「あ、うん。起きてるよ。すぐ降りるから」


 そう言って、ベッドから降りる。ひとまず、ティシュで額や首にかいた汗を拭き取り、部屋を出て居間へと向かった。



 学校も終わり、竜也はそのまま神社––––もとい水月の家へと向かった。


 いつも通り、拝殿の障子に手をかけ、霊力を流し込んでそれを開ける。玄関から上がり込み、水月がいるであろう部屋へと向かった。

 襖を開けると、そこには水月が茶を飲んで座っていた。


「竜也か、はやいな」


「え、あれ。俺だけ? てっきりもう二人とも来てるものかと……」


「残念ながら、まだ来ておらんよ。儂だけでは不満か?」


 片方の口角を上げ、ニヤリと笑う水月。目元は布で隠れているためわからないが、きっとイタズラげな目をしていることだろう。


「んなわけないだろ。いつも二人の方がはやいから言っただけ」


「ふふ、わかっとるよ。ちょっとからかってみただけじゃ」


 袖で口元を隠して笑う。そんな彼女のことを、竜也は呆れ気味に見ていた。

 暫し沈黙が流れる。竜也は水月が持ってきてくれた茶も飲まないで、ボーッとしていた。


 そんな中、ふと水月が話しかけてくる。


「のう、ちと聞いても良いか?」


「えっ、なに急に……」


「いや何、少しお前さんのことを知りたいと思ってな。儂は生憎あいにく、家系の事情は知らなくてな。お前と桜の間に何かがあったことは察せるが、具体的に何が起きたかはわからん。もし、もし良ければでいいんだ。何があったのか、話してはくれんか」


 竜也は少しばかり口を噤む。話したいか話したくないかと聞かれても、よくわからない。黙っていると、水月が気を使ってか、


「嫌ならいいんだ。無理に聞き出すつもりは––––」

「いや、話したい」


 少し迷いはある。だが、力強い声でそう言った。


「正直、昨日からずっとモヤモヤしてたんだ。いい話じゃないけど、それでも良かったら、聞いてくれたり……」


 竜也は、水月の顔を覆いながら話す。彼女は目元が見えない分、何を考えているのかが読みにくい節があるため、今の彼にとっては、不安要素だった。


「何を許可をとる必要がある。むしろ話してほしいのはこちらなんだぞ?」


 彼女は、微笑んでいた。声色も雰囲気そのものも、とても柔らかい。

 竜也はホッとしたように胸を撫で下ろし、ゆっくりと口を開いた。


「まあ、知っての通り、俺は明星の分家、桜は本家。これも重要な話だけど、俺たちに隔たりがある大きな理由は、そこじゃない」


「と、言うとやはり––––」


「“術”だよ」



 明星家が重要視するのは、霊力量、そしてその技量。霊力量が多いだけというのは、特に重宝されない。


 なぜか。

 理由は単純。宝の持ち腐れだからである。


 霊力量があっても、それを扱いきれないのであれば、意味が無い。彼らにとっては、霊力量がないことよりも、あってもそれを扱えないことの方が問題なのだ。


 竜也は、まさしくその筆頭。


 彼は霊力自体は多く生まれてきた。しかし、それを扱うすべを持っていなかったのだ。成長しても術が一向に発動することがない。

 本家の人間にとっては、それはもう期待はずれだったことだろう。次第に竜也含めた家系は、本家だけでなく他の分家からも疎まれるようになった。


 竜也はそれを憂いでいる。両親にも、祖父母にも申し訳ない気持ちしか生まれなかった。

 そんな劣等感の中、桜は術を持った。昨日使っていた、植物を操る術––––操植そうしょく術。


 これが彼の劣等感を更に高めたのだ。莫大な霊力量、成長するにつれ上がる操作技術。もはや、自身に勝ち目などないと悟らされた。今も尚、彼女の卓越した技術を越すことは叶わない。



「まあ、越せないつっても、越そうとも思ってないんだけどな」


 竜也は自身を嘲るように、軽く笑ってみせる。しかし、水月は一切笑うことはなかった。


「そうか。そんなことがあったのだな」


 そこで一度会話は途切れる。


「えっ、竜也がはやいとかめずらしっ」


 気まずい沈黙を蹴破るかのように、襖を開けた詩織が開口一番そう言った。


「んだよ、なんか悪いかよ」


 不貞腐れたように口を尖らせると、詩織は軽く笑いながら否定する。


「違うわよ。だってあんたが一番に来ることなんて、滅多になかったじゃない」


「それはまあそうだけど」


「ようやくあんたも、守人としての自覚が芽生えてきたのかな〜」


 先輩風を吹かす詩織に、若干ウザさを覚える。そんなところに、湊も遅れて登場した。


「あ、湊兄」


「やあ。何の話してたの?」


「いや、詩織が〜」


 守人たちが談笑している横で、水月は頬杖をついて考え事をしていた。昨日のことを。


 ––––桜の方も、多分気にしている。じゃが、竜也は劣等感、桜は罪悪感で相容れない……とでもいったところか。


 昨日、竜也が出ていったあと、桜は追いかけようか迷っている様子だった。この問題は、桜が悪い訳では無い。かと言って、竜也も悪いとは言えない。


 劣等感を抱く原因と話したいと思う者は、さしていないだろう。罪悪感を抱えている方も、こうあっては関わることはできない。

 どちらにメリットもない、そんな状態で和解など、無理に等しい。


「家系のせいで余計に……か」


「ん? なんか言ったか?」


「いいや、なにも」

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