第四篇 合同任務
「「「合同任務?」」」
守人ら三人の声が重なる。それに対し、水月は一つ頷いて話し出した。
「ああ。まだ詳細は送られてきておらんが、どうやら次の黄泉がえりの討伐は、月影たちと協力をとな」
「そうなんだ。私、水月様以外の神様に会ったことないから、ちょっと楽しみ」
「月影様と言ったら……月の光から生まれた神様でしたか?」
湊の質問に水月は、少しの沈黙のあと、コクリと頷いた。
すると今度は、彼の隣に立っている詩織が、
「そういえば」と小さく口にする。
「月影様の守人ってたしか……」
彼女が呟くと、さらにその隣に立っていた竜也は、言葉が耳に入るなり、ビクッと肩を震わせた。それを横目で見ていた詩織の頭には、ハテナが浮かぶ。
「今から、黄泉がえりの残した霊力の残滓を追うのだが、その間に––––」
彼女がにこやかに人差し指を立て、ゆっくりと襖の方を指さす。すると、襖がゆっくりと開き、廊下に立っている二人の姿が顕となる。
一人は長い黒髪を携え、紫色の瞳を持った女性。もう一人は、肩甲骨辺りまで伸びた、癖のある茶色の髪にピンク色の瞳を持った女性。
「まあ、初めまして!」
しばしの沈黙のあと、先に口を開いたのは、黒髪の女性。彼女はおっとりとした微笑みで、竜也らに挨拶をした。
「私は月影。北部にある町の神よ。それで、こっちは––––」
「お初にお目にかかります。《《明星》》桜と申します。月影様の守人です。どうぞよろしくお願いいたします」
花が咲くような笑顔で挨拶をしたのは、桜。
しかし、詩織と湊は挨拶も返さず、怪訝そうな表情を浮かべていて、竜也に関しては、どこかバツが悪そうにしているというか、気まずそうにしている。
「あ」
すると、湊が何かを思い出したかのように、声を出した。
「桜さんってたしか、明星家の……」
「あ、はい……。本家の人間になります」
それをら聞いて、詩織はどこか納得したように手をポンと叩く。
竜也は、何か嫌なものを聞いたとでも言いたげに肩を跳ねさせた。
「なんじゃ、知らんだのか」
「いえ、噂には聞いた事があったんですけど、実際に会ったことは一度もなかったので」
「で、竜也はなーんでそんなに縮こまってんのよ」
詩織は、いつの間にか部屋の角に移動していた竜也に声をかけた。彼はジメジメとしていて、頭からキノコでも生えていそうな雰囲気を醸し出していた。
「い、いや……なんもないから、気にしないで……」
そう言うと、竜也は目を横に逸らす。
なんなんだと思いながら、詩織が視線を戻すと、桜も同じように気まずそうな表情をしていた。
「え、だ、大丈夫––––」
そこまで言いかけて、詩織は口を慌てて抑える。湊もその反応を見て、どこか納得した様子だった。
その空気を感じ取った水月は、手をパチンと叩いて、視線を自分へと向ける。
「さ、自己紹介もある程度済んだことじゃ。さっさと黄泉がえりを探しに行くぞ」
◆
報告があったのは、竜也たちの住む市からは少し離れた町。南の方へ進んだ先にあるその町は、コンビニもそこまで見当たらないような田舎だった。
近くには、廃れ、汚れた神社もある。
人通りは多くなく、ここなら隠れるのにも適しているかもしれない。
「たしかに人もあまりいないですけど、ここら辺開けてますし、そんなに潜伏できるものですかね?」
湊が二柱の神に尋ねた。
「そうねぇ。あるとしたら、霊力を隠すのが相当上手い神か、或いは––––」
月影がそう言いかけたところで、頭上から風の玉のような攻撃が降ってくる。それにいち早く反応したのは、桜。
彼女は虚空から薙刀を取り出し、降ってきた風の玉を切り裂いた。
突風が辺りを散らし、視界が一時的に塞がれる。風で上手く聞こえないが、何者かが近づいてくる音がした。
「お、月影の予想が当たったな」
そう言う水月の声が聞こえ、風も治まってきた頃に竜也が目を開けると、そこには一人の子どもが立っていた。
黒い髪をおかっぱにした少女。禿の姿をしていて、眉を八の字に下げている。手には鞠を持っており、随分と子どもらしい見た目をしているが、眼光がこれでもかという程鋭い。
「やっぱり子どもね」
「……わかってたんだ」
少女が呟く。月影はというと、にっこりと微笑むだけ。
「黄泉がえり……」
竜也はボソッと呟いた。とても、驚いていたから。
黄泉がえり自体、今までも見てこなかったわけではないが、いずれも大人の姿であり、幼子の姿をした黄泉がえりには、出会ったことがなかった。
「向こうから出てきてくれるなんて、なんてありがたい話かしら」
油断していそうな発言であるが、詩織の表情は真剣そのもの。薙刀を取り出し、いつでも先陣を切れるように用意をする。
竜也もそれに倣うように、刀の柄を握った。湊も、いつだって氷の術を使うことができる様子。
「ちなみに聞いておくが、交渉に乗る気は?」
「ないよ」
「そうか。生魂比女の名において––––」
「天津野風の名において、神域今ここに」
水月よりも先に、禿姿の黄泉がえりの方が詠唱を唱え終わる。その瞬間、辺りが暗闇に包まれた。しかし、すぐさま火が灯り、周りの様子が明らかになる。
顕になった神域を見て、竜也たちは驚きに包まれることとなった。
周りには、蝋燭が無数に宙に浮いており、吹いている風によってゆらゆらと揺らめいている。足元は草原。終わりの見えない、果てしない草原だ。
草原といえば、爽やかなイメージがあるものだが、ここは全くそうではない。空は星すら浮かんでいない真っ暗闇。蝋燭がなければきっと、何も認識することは出来ないだろう。
「おいおい、なんだよこの神域……!」
「なにって……あなたたちがこんなふうにさせたくせに」
黄泉がえりの発言に、竜也は思わず「はあ?」と言ってしまう。全くもって身に覚えのないことだったからだ。
しかし、それが失敗だったということは、すぐに分かることだった。
黄泉がえりの眼光はさらに鋭くなり、右手を掲げ、人差し指を竜也の方へ向ける。竜也がそれに気づいたと同時に、彼の身体が後ろに飛ばされたのがわかった。
竜也はもちろん、詩織たちもそれに驚く。黄泉がえりは、次はお前だと言わんばかりに、人差し指を詩織へと向ける。
詩織が目を見開く間もなく、風が彼女の方へ向かった。しかし、すんでのところで桜が詩織のことを抱え、風に当たらぬよう、垂直に避ける。
攻撃に失敗したことがわかると、次は標的を湊へと変更。それすらも認識させぬうちに突風を吹かせる。湊は、扇をバッと広げ、下から上へとそれを振るった。
その瞬間に、地面から波のような形をした氷が出現する。風はそれにぶつかり、軌道が黄泉がえりの方へと変わった。突風は、彼女の目の前まで一瞬でたどり着く。
「チッ」
左手で風をなぎ払い、風を離散させた。
「どうじゃ、月影」
水月が、遠巻きに戦況を見ている月影に問いかける。彼女はしばしの沈黙のあと、軽く微笑んで、
「ええ、わかったわ。彼女、私よりも弱い」




