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神代の縁  作者: 榊 雅樂
序章
3/15

第三篇 任務完了

 彼女が唱えると、周りの景色が変わっていく。先程まで築何十年と経った民家だったのだが、気づけば森の中にいた。

 木漏れ日さすその場所は、とても心地の良い場所である。


「あら、あらあらあら。()()家が……」


「あなたの家ではありません」


 言うと、湊は水色の扇子をバッと開くと、優しく一つ仰いでみせる。

 仰いだ風が通っている場所に、氷が地面から氷山のように、女に向かっていく。


 しかし、女は軽々と余裕そうにそれを避けた。


 女は湊の方を睨むと、虚空から剣を取り出す。体制を立て直し、上から下へと縦一文字に切りつける。

 湊は氷で壁を創り、剣は氷に刺さって抜けなくなる。その横から、詩織は薙刀で女に切りかかった。しかし、女は上に飛んでそれも避ける。


「ちょっと、大人しく切られなさいよ」


「そう言われて、素直に応じるはずもないでしょう」


「ま、そりゃそうよね」


 そう呟くと、詩織はまた薙刀を振るう。五回、十回と振るっていくうちに、女の体制が少しずつ崩れる。詩織は最後にもう一つ、大きく薙刀を振るった。


 女はバク転で避けるが、額に小さな切り傷が着いており、血が一筋流れている。


「一つ問うて良いか」


 水月は女に言う。


「あら、なあに?」


「なぜこの民家を襲った? なぜ家主を……」


 そこまで言うと、女は何気ない顔で微笑んで、


「だって、このおうちを譲ってくださらなかったんだもの。ここ、すごく落ち着くから、譲って欲しいって頼んだのに、あの人、応じてくれなかったのよ。だから、ね?」


 あとは言わなくてもわかるだろう。そう言いたげな顔で、女は首を傾ける。


「そうか。では、もう良いぞ」


 水月の言っている意味がわからず、女の頭にはハテナが浮かぶ。しかし、後ろからの殺気により、その意味はすぐに理解できた。


 後ろにいたのは、竜也だった。彼は刀を強く握り、女に当たるスレスレのところまで来ている。彼女はすぐに迎撃しようと思ったが、彼に気づくのが一足遅かった。

 そのまま為す術なく、腰を横に斬られる。


「黄泉路を照らす篝火よ、人草救いし桃の木よ、彼をあるべき場所へ!」


 水月が御札を掲げ、詠唱を唱えると、女の後ろには大きな洞窟のようなものが現れる。彼女はそこに吸い込まれ、しめ縄の着いた大岩で塞がれ、消えていった。



 その後、竜也たち一行は水月の家へと戻り、疲れを癒すように茶を飲んでいた。


「あー疲れた」


 詩織は机に顔を突っ伏して、だらしのない声で言う。


「お疲れさん。すまないな、わしがもっと戦闘の出来る神であれば良かったのじゃが……」


「なんてこと言うんですか〜! 水月様は頑張ってくれてるじゃないですか。神域なんて、維持するのも大変でしょう!?」


 詩織は水月の自嘲気味な笑いに対して、全力で否定するように、身を乗り出してそう言った。


「なあ、神域って神によって景色が違うんだよな?」


「ああ、わしは一応『自然の神』として名が通っているから、あの森のような景色になるというわけじゃ」


「一応ってなんだよ……」


 竜也か突っ込むと、隣で「ふふ」と小さく笑う声が聞こえた。横を見ると、口元を手で覆って、肩が小刻みに揺れている湊の姿がある。


「おい、何笑ってんだよ、湊兄」


「ふふっ、ごめ、ごめんね。ちょっと変にツボに入っちゃって……」


 そう言って笑い続ける湊に、竜也は若干の気恥しさを覚えた。

 まさか、自分の何気ない一言が、ここまで誰かに刺さるとは思っていなかった。そう思うと、なぜか恥ずかしい。


「あんた、神域なんて知ってたのね」


「さすがに知ってるよ。っていうか、今までの戦いでも見たし」


 神域というのは、神のみが使うことのできる、別空間のようなものだ。それには、衆目を避けることや、山々や建築物、民衆などに被害を出さないなどの効果がある。

 景色は先程も竜也が言っていた通り、神が司っているものによって変わってくる。


「さ、時期に暗くなってくる。家に帰って、さっさと報告書を書いて、親に渡しなさい」


 水月が立ち上がって言うと、三人は渋々といった感じで返事をし、各々の家へ帰っていった。



「おはよー、竜也!」


 歩いている竜也の背中を、強く叩いて挨拶をしてきた者が一人。彼が振り向くと、そこにいたのは懐っこい笑みを浮かべた幼馴染がいた。


「ってえな。いきなり叩いてくんじゃねえよ、健

人」


「へへ、ごめんごめん」


 健人と呼ばれた少年は、鼻の下を擦り、悪戯げに微笑む。


「守人就任おめでとう」


「嬉しくはないけどな」


「やっぱり? 言うと思ったけどさ」


「当たり前だろ。何が悲しくて捨て身の覚悟で戦わなきゃなんねえんだよ。俺たちまだ子どもだぜ?」


 竜也がため息をつきながら言うと、健人は「よっ、正義のヒーロー」などと言って茶化してくる。竜也はイラついた表情を見せるが、本気でないとわかっているため、健人のふざけた笑みは収まらなかった。


「あんたら、何やってんのよ」


 後ろから呆れ混じりのため息をついて声をかけてきたのは、詩織だ。


 彼女は中学に上がってから健人と話し始めたが、既に親しげに話す間柄になっていた。竜也はそれが、健人のコミュニケーション能力の高さ故だとわかっている。


「こいつがウザイんだよ」


「いやあ、お前の言いたいこともわかるぞ? 一般の人らは、お前らのことなんて、なーんにも知らないもんな」


「そういうことじゃない」


 竜也がいがむと、健人はケラケラと笑いながら走って逃げていく。それを追いかけるが、なかなか捕まらない。後ろを歩いている詩織は、呆れているが、でもどこか楽しそうな表情で二人の様子を眺めていた。



「ふむ……」

 水月宅、彼女は顎に手を当て、烏の運んできた文を読んでいた。

「今度は、()()()との合同任務か」

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