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神代の縁  作者: 榊 雅樂
第一章
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第二篇 黄泉がえり

 竜也は学校帰り、いつものように水月の家へと向かう。校門を出る、というところで詩織と鉢合わせたため、一緒にいた幼なじみとわかれ、そのまま詩織と神社へ向かった。


 しかし、これといって話題がない。神社に着くまで、もう少しかかるが、この沈黙に耐え切れる気がしない。


「……ねえ」


「うぇ、あ、なに?」


 唐突に声を掛けられ、竜也はトンチンカンな返事をしてしまう。


「何よ、その声。……前から気になってたんだけど、あんた、“術”とか持ってるわけ?」


「あ……」


 思わず口ごもる。


 術というのは、それぞれが持つ特殊な力のこと。これには、個人で独自のものが現れることや、家系によって代々受け継がれてきたものなどが存在する。

 湊が使っていた氷も、彼の能力というわけだ。


 そして、竜也が口ごもっているのは––––


「俺には……無いよ」


 そう、無いのだ。竜也には。術が無いということ自体、そう珍しいことではない。むしろ、能力を持つ者、持たない者、それぞれは半々ぐらいの割合なのではなかろうか。


 しかし、竜也にとってはそれは前代未聞。彼は分家とはいえ、名家の生まれ。術を持たない者は一流ではないとされる。


「あら、やっぱりそうなのね」


「え、やっぱりって……」


「これまでの戦いの中で、あんたが術を使ってるところ、見た事ないもの。よっぽど特殊な状況でしか使えないか、デメリットが大きすぎるかってぐらいじゃないと、大体は使うでしょ」


「それは……たしかに……」


 絶対に気づかれていない。そう思っているわけではなかったが、実際に言われると、驚いてしまうものだ。


「ま、わたしも術なんて持ってないしね」


 詩織はボソッと呟いた。ただ、竜也にはそれが聞こえなかったらしく、聞き返されたのだが、彼女はなんでもないと言って、そのまま歩き続けてしまった。


 走行しているうちに、目的地の神社へとたどり着いた。二人は障子に手をかけ、中に入る。

 いつも水月がいる居間へ行くと、既に湊が到着して、水月に対面する形で座っていた。


 それも、神妙な面持ちで。


「え、何。なんかあったの?」


「ちとな……。これを見てもらった方が早いじゃろ」


 そう言って見せてきたのは、一通の手紙。縦書きで書かれている文字は、達筆でどうも読みにくい。

 が、それも読めるように訓練されてきたので、竜也はスラスラと読んでいく。


「……また出たのか」


 隣の町に黄泉がえりが出たとの通達だ。至急、その場へ向かうようにと書かれている。


「対処するほかないわ。はやく行きましょう」


 詩織が言うと、座っていた二人もすぐさま立ち上がり、水月は虚空に手をかざした。すると、空気しか漂っていないであろう場所に、襖が現れる。

 それには、山々などの絵が描かれていた。


 水月が勢いよく襖を開けると、たどり着いた場所は、とある丘の上だった。人目につかぬよう、誰もいない場所に転移したのだ。


「水月様、黄泉がえりが出たという場所は?」


 湊が問いかけると、水月は手紙を見返して、書かれている場所を言った。


「この先を北へ行ってすぐの民家じゃ。行くぞ!」


「「「はい!」」」



 行き着いた先は、ポツンと一軒だけ建っている民家だった。周りには小道と木々しか無く、人が多く通うような場所ではなかった。

 民家の中からは、血の滴る匂いがする。


 いつ黄泉がえりに遭遇してもいいよう、慎重に足を運ぶ。

 外からでも血の匂いがよくわかったが、中に入ると、それはさらに鼻にまとわりついてきた。


「ねえ、ここの家の人、生きてると思う?」


「さあね……でも、さすがにこの感じだと––––」


「みんな、止まれ」


 敵と家の主を探りながら廊下を歩いていると、いきなり水月が片手を広げ、竜也たちを制止した。

 制止した場所は、とある部屋の前だった。水月が襖の隙間を覗く。


 竜也たちには、部屋に何があるのか、角度的にも見えなかった。

 水月は一通り確認したあと、くるりと向き直り、優しい笑みを向ける。


「ここは大人たちに任せよう。わしらは、早いところ黄泉がえりを見つけるぞ」


「え、なんで……」


「竜也くん」


 理由を問いただそうとする竜也を、湊は首を横に何度か降って、それをやめさせた。竜也は不服そうな顔をしているものの、水月の言いつけに従って、向きを変えて歩き出した。


 そして着いたのは、居間らしき部屋。水月は確信を持ったように襖を開いた。


 そこにいたのは、白髪混じりの長い黒髪を携えた、一人の女。こいつは人間ではなく、確かに黄泉がえりだ。


「あらぁ、いらっしゃい」


 重ねた手を顔の横に持っていき、満面の笑みで女は言った。まるで、自分がこの家の主だとでも言いたげな顔だ。


「すぐにお茶用意しましょう。湯のみ、五つもあったかなあ」


 ルンルン気分で立ち上がろうとする女を、詩織は薙刀で立ち塞がった。


「あんた、ここの家主じゃないでしょう。なに我が物顔で言ってるのよ」


 低い声で言う。眼光は鋭く、警戒心と殺気は剥き出しだ。しかし、女は何食わぬ顔で、


「前の家主がもういないんだから、もうここは私のものよ」


 ニッコリと笑う女は、どこか不気味だった。


「あっそ」


 そう呟いて、詩織は距離を取り、薙刀で女の胸を斜めに切りつける。その隙に、水月はある詠唱を唱える。


「生魂比女の名において、神域しんいき今ここに」

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