第二篇 黄泉がえり
竜也は学校帰り、いつものように水月の家へと向かう。校門を出る、というところで詩織と鉢合わせたため、一緒にいた幼なじみとわかれ、そのまま詩織と神社へ向かった。
しかし、これといって話題がない。神社に着くまで、もう少しかかるが、この沈黙に耐え切れる気がしない。
「……ねえ」
「うぇ、あ、なに?」
唐突に声を掛けられ、竜也はトンチンカンな返事をしてしまう。
「何よ、その声。……前から気になってたんだけど、あんた、“術”とか持ってるわけ?」
「あ……」
思わず口ごもる。
術というのは、それぞれが持つ特殊な力のこと。これには、個人で独自のものが現れることや、家系によって代々受け継がれてきたものなどが存在する。
湊が使っていた氷も、彼の能力というわけだ。
そして、竜也が口ごもっているのは––––
「俺には……無いよ」
そう、無いのだ。竜也には。術が無いということ自体、そう珍しいことではない。むしろ、能力を持つ者、持たない者、それぞれは半々ぐらいの割合なのではなかろうか。
しかし、竜也にとってはそれは前代未聞。彼は分家とはいえ、名家の生まれ。術を持たない者は一流ではないとされる。
「あら、やっぱりそうなのね」
「え、やっぱりって……」
「これまでの戦いの中で、あんたが術を使ってるところ、見た事ないもの。よっぽど特殊な状況でしか使えないか、デメリットが大きすぎるかってぐらいじゃないと、大体は使うでしょ」
「それは……たしかに……」
絶対に気づかれていない。そう思っているわけではなかったが、実際に言われると、驚いてしまうものだ。
「ま、わたしも術なんて持ってないしね」
詩織はボソッと呟いた。ただ、竜也にはそれが聞こえなかったらしく、聞き返されたのだが、彼女はなんでもないと言って、そのまま歩き続けてしまった。
走行しているうちに、目的地の神社へとたどり着いた。二人は障子に手をかけ、中に入る。
いつも水月がいる居間へ行くと、既に湊が到着して、水月に対面する形で座っていた。
それも、神妙な面持ちで。
「え、何。なんかあったの?」
「ちとな……。これを見てもらった方が早いじゃろ」
そう言って見せてきたのは、一通の手紙。縦書きで書かれている文字は、達筆でどうも読みにくい。
が、それも読めるように訓練されてきたので、竜也はスラスラと読んでいく。
「……また出たのか」
隣の町に黄泉がえりが出たとの通達だ。至急、その場へ向かうようにと書かれている。
「対処するほかないわ。はやく行きましょう」
詩織が言うと、座っていた二人もすぐさま立ち上がり、水月は虚空に手をかざした。すると、空気しか漂っていないであろう場所に、襖が現れる。
それには、山々などの絵が描かれていた。
水月が勢いよく襖を開けると、たどり着いた場所は、とある丘の上だった。人目につかぬよう、誰もいない場所に転移したのだ。
「水月様、黄泉がえりが出たという場所は?」
湊が問いかけると、水月は手紙を見返して、書かれている場所を言った。
「この先を北へ行ってすぐの民家じゃ。行くぞ!」
「「「はい!」」」
◆
行き着いた先は、ポツンと一軒だけ建っている民家だった。周りには小道と木々しか無く、人が多く通うような場所ではなかった。
民家の中からは、血の滴る匂いがする。
いつ黄泉がえりに遭遇してもいいよう、慎重に足を運ぶ。
外からでも血の匂いがよくわかったが、中に入ると、それはさらに鼻にまとわりついてきた。
「ねえ、ここの家の人、生きてると思う?」
「さあね……でも、さすがにこの感じだと––––」
「みんな、止まれ」
敵と家の主を探りながら廊下を歩いていると、いきなり水月が片手を広げ、竜也たちを制止した。
制止した場所は、とある部屋の前だった。水月が襖の隙間を覗く。
竜也たちには、部屋に何があるのか、角度的にも見えなかった。
水月は一通り確認したあと、くるりと向き直り、優しい笑みを向ける。
「ここは大人たちに任せよう。わしらは、早いところ黄泉がえりを見つけるぞ」
「え、なんで……」
「竜也くん」
理由を問いただそうとする竜也を、湊は首を横に何度か降って、それをやめさせた。竜也は不服そうな顔をしているものの、水月の言いつけに従って、向きを変えて歩き出した。
そして着いたのは、居間らしき部屋。水月は確信を持ったように襖を開いた。
そこにいたのは、白髪混じりの長い黒髪を携えた、一人の女。こいつは人間ではなく、確かに黄泉がえりだ。
「あらぁ、いらっしゃい」
重ねた手を顔の横に持っていき、満面の笑みで女は言った。まるで、自分がこの家の主だとでも言いたげな顔だ。
「すぐにお茶用意しましょう。湯のみ、五つもあったかなあ」
ルンルン気分で立ち上がろうとする女を、詩織は薙刀で立ち塞がった。
「あんた、ここの家主じゃないでしょう。なに我が物顔で言ってるのよ」
低い声で言う。眼光は鋭く、警戒心と殺気は剥き出しだ。しかし、女は何食わぬ顔で、
「前の家主がもういないんだから、もうここは私のものよ」
ニッコリと笑う女は、どこか不気味だった。
「あっそ」
そう呟いて、詩織は距離を取り、薙刀で女の胸を斜めに切りつける。その隙に、水月はある詠唱を唱える。
「生魂比女の名において、神域今ここに」




