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神代の縁  作者: 榊 雅樂
第一章
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第十篇 数打ちゃ当たる

 湊は扇を大きく振るい、黄泉がえりの腕に氷を惑わせた。大きな氷の塊が着いた腕はとても重く、そして冷たく、とても動かせたものではない。

 黄泉がえりが氷に気を取られている隙に、颯太が刀で腕を切り落とそうとする。が、黄泉がえりは瞬時に水を周囲に撒き散らした。


 飛沫が目に入らぬよう、咄嗟に目を瞑ってしまい、その隙を見て黄泉がえりは距離を取る。

 何度か腕を振って、氷を落とせぬものかと奮闘するが、なかなか取れない。壁も無い神域のため、壁にぶつけて氷を砕くことも叶わない。


「くそっ」


 悔しがっている黄泉がえりを横目に、颯太は思考をめぐらせた。


 ––––ここで鳳明様に炎で取り囲んでもらったとしても、氷を溶かしてしまうだけ。そうしたら、すぐに水で炎をダメにしてしまうな。


 横目でチラリと鳳明のことを見るが、彼は相当消耗している様子。汗がいくつの箇所にも見られる。

 ここで彼を使わせてしまうのも酷だ。では、使えるのは、他の守人三人。


「あの」


 彼が悩んでいると、横から詩織が話しかけてきた。


「私たちに、何ができますか?」


 今、この場で冷静に状況判断をできそうなのは、颯太だろう。竜也は経験不足、他二人は経験はあれど、先程の黄泉がえりの攻撃の雨によって消耗している。


 そんな中で冷静に判断することは、なかなかに難しい。


「そうですね……」


 颯太は口に手を当てて考える。


 目の前には、手にまとわりついた氷を壊そうと試みる黄泉がえり。このまま行けば、黄泉へ戻すことは容易。

 せめて、黄泉へ戻せるほど弱らせられないものか。


「じゃあ––––」


 黄泉がえりは何度も何度も右腕を振り、氷を取ろうと奮闘している。先程よりかは溶けてきただろうか。

 しかし、依然として氷の塊は残ったまま。このままでは、腕が壊死してしまう方が先だろう。また腕を振ろうとしたその瞬間


 後ろからまたも悪寒が走る。勢いよく振り返ると、そこには今にも切りかかってきそうな勢いの颯太がいた。

 彼が刀を振るうと同時に、黄泉がえりは後ろへ飛び退く。が、その後ろには詩織が待ち構えていた。彼女は縦に刀を振るい、黄泉がえりはすんでのところでそれを避ける。


 避けたところには湊。氷で足元を固めようとするが、黄泉がえりはそれすらも避けた。しかし、避けたところにはまた颯太、それも避けるとまた、と避ける度に待ち構える。

 はっきり言ってゴリ押しだ。目には目を歯には歯を、ゴリ押しにはゴリ押しを。


 数で攻撃してくる相手なのならば、こちらも数で攻撃してしまえばいい。これでおあいこなのだから。


 数に押されてきた黄泉がえりは、氷の塊で詩織の頭を殴ろうとする。しかし、彼女はそれを軽々と避けてしまう。黄泉がえりは勢いよく腕を振るった反動で、体制が崩れた。

 颯太はそれを見逃さず、右腕を切り落とそうとする。


「バカめ、そっちが切られたところで左腕こっちがなあ!」


 刹那、左腕に鋭い痛みが走った。何事かと思いそちらを見ると、肘から手のひらにかけて腕が一直線に斬られているではないか。


 衝撃と痛みにより、黄泉がえりは声にならない声をあげる。弱ったところで水月が札を取り出そうとすると、彼は悪あがきか、水月に真っ直ぐ睨んだ。


 攻撃をされる、そう判断した彼女は身構える。しかし、すぐさま黄泉がえりは、視線を疲弊している鳳明へと移した。

 間もなく、黄泉がえりは鋭い棘のような水を、鳳明に向かって飛ばす。


 守人たちはヤツの余力と攻撃に目を見開き、体の向きを変える。中でも颯太は、取り分けてはやく動いた。自分の主の危機なのだ、焦るだろう。

 だが、彼らが向かうよりも速く攻撃は向かっていく。鳳明は炎の壁を作るが、霊力を消耗した炎は、水の前では無力も同然だった。


 爆ぜるような音と共に、灰色の煙が立ち込める。煙が喉に入り込み、何度か咳き込んだ。


「鳳明様!」


 颯太が叫ぶが、返事はない。

 煙は次第に晴れ、()()の人影が姿を顕にした。


「水月……!」


 鳳明の前には、黄泉へ還す札とは別の札を持った水月が立っている。彼女は何度か肩を上下させていた。きっと、大慌てで舞い込んだのだろう。


「ごめんね、ありがとう」


「いや何、いつも助けて貰っとるんじゃ、これぐらい……はあ……」


 彼女ははっきり言って体力などない。それに身体も小さいため、少しの距離でもかなり疲れを感じやすいのだ。


 鳳明に微笑みかけていた水月は、クルッと身体の向きを変え、真剣な表情で苦しんでいる黄泉がえりに目を向ける。そして今度こそ、黄泉へ還す札を彼に向けた。


「くそっ……」


「黄泉路を照らす篝火よ、人草救いし桃の木よ、彼をあるべき場所へ」


 水月が唱えると、黄泉がえりの後ろから大岩が姿を現す。彼は風と共に吸い込まれていき、大岩は塞がれた。と、共に、鳳明の神域も解ける。

 彼は疲れきったようにその場にへたり込み、大きく息を吐き出した。


「大丈夫ですか……!」


 颯太が慌てて彼の元へ向かう。


「大丈夫だよ、これぐらい。むしろ皆にも情けないとこ見せちゃって……はは」


「情けないわけあるか。合わない奴と戦ったって、勝てるわけないじゃろ」


 水月の横で、颯太は何度も頷く。


「いやあ、どうだろう。とりあえず、ちょっと休ませてもらってもいい?」


「ああそうじゃな。お主ら、そろそろ戻るぞ」


 言うと、三人は返事をする。詩織は颯太を呼び戻し、色々と話を聞いているようだ。

 その隙に水月は、千早の袖で口元を隠し、鳳明の耳元まで近寄る。


()()()()()()()()も良いのか?」


「うん、そこまでの怪我じゃないから」


 それを聞くと、彼女はそうかと言って、自身の家へと繋がる襖を開け、全員で家へと帰っていった。

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