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轟く歓声がまだ訓練場に響き渡っていた。
「勝者――相原悠真!」
その声に合わせて、観客席は総立ちになり、嵐のような拍手と歓声が押し寄せる。
「クラッシャー!」「十支族を砕いた一年!」
「化け物かよ!」「いや、英雄だろ!」
――称賛と畏怖が入り混じった声のシャワーを浴びながら、悠真は拳を握り直す。
(……勝った。本当に、俺の力で)
控室に戻ると、そこにはすでにクラスメイトたちが集まっていた。
扉を開けた瞬間――
「おおおおっ! 来たぞ、優勝者!」
「クラッシャー、お疲れ!」
一斉に歓声が飛び、悠真は思わず立ち止まる。
「お前、ほんとにすげぇよ!」真田が真っ先に飛びつき、肩をバンバン叩く。
「でも大丈夫か? あんだけ雷浴びて、体おかしくなってない?」
悠真は少し笑い、両手を広げて見せる。
「見ての通り、傷一つない。不思議なくらいにな」
「傷なし!?」白鳥が驚愕の声をあげた。
「やっぱ化け物だなぁ」真田が苦笑すると、外村が大げさに頷いた。
「俺なんか壁に小指ぶつけただけで一週間腫れるのに!」
「いやお前の例えは雑すぎ!」クラスの誰かが即ツッコミを入れ、どっと笑いが起こる。
「でも……」白鳥が改めて悠真を見つめ、真剣に言った。
「すごく……かっこよかった」
その言葉に悠真は少しだけ頬を赤らめ、目を逸らす。
「フン……」低い声が控室の隅から響いた。
黒瀬が壁にもたれ、腕を組んで悠真を睨んでいる。
「相原。お前が化け物だってことは認める。だが――」
わずかに口角を吊り上げる。
「次は俺が勝つ。あの雷槍を砕いたからって、調子に乗るな」
「黒瀬……」
悠真が真っ直ぐに視線を返すと、黒瀬はそれ以上言葉を続けず、静かに背を向けた。
「相変わらずツンケンしてるなぁ」真田が肩をすくめる。
「でもアイツ、たぶん相原のこと認めてるよ。あれが黒瀬なりの祝福ってやつだ」
その後も、クラスメイトたちが次々と声をかけてくる。
「優勝したんだし、打ち上げしようぜ!」
「いやまずはゆっくり休ませてやれよ!」
「でもさ、俺たちのクラスから優勝者が出たってすげぇよな」
皆が口々に笑い合い、控室は祝宴のような雰囲気に包まれていった。
悠真はその輪の中で、ふと拳を見下ろす。
(……化け物だと呼ばれ続けてきた俺が、今はこうして仲間に囲まれてる。勝ったからじゃない……俺自身を、少しずつ受け入れてくれている)
胸の奥に、温かいものがじんわりと広がっていった。
――決勝戦の余韻は、歓声と笑い声に包まれた控室で、静かに深く刻まれていく。




