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模擬戦から数日。
学園中がまだ優勝の話題でざわついている頃――俺は静かに訓練場に立っていた。
「相原。お前の拳は、壊すには十分すぎる」
篠原先生の目は鋭く、言葉は重かった。
「もちろんダンジョン探索をするにあたって破壊力は大切だ。だが、それだけでは技が育たない。制御できてこそ、一流だ」
先生の手に掴まれた瞬間、俺の体は自然と宙を舞い、背中から畳に落ちる。
呼吸を合わせられたみたいに、痛みはほとんどなかった。
「これが投げ技だ。力を込めるんじゃなく、抜いて流す」
先生は軽く手を払って見せた。
拳を握りしめる俺に、さらに言葉を重ねる。
「力任せに殴れば、仲間ごと巻き込むこともあるだろう。壊すんじゃなく、受け流すんだ」
(……柔軟な戦い方。俺に必要なのは、きっとそれだ)
深く頷きながら、俺はその言葉を胸に刻んだ。
夕暮れ。学園近くに広がる転移ゲート前。
そこに浮かぶ文字を見上げるだけで、胸がざわついた。
――《新宿ダンジョン》
あの事故以来、初めての足踏みだ。
かつて下層に落とされ、仲間たちと死の淵を彷徨った場所。
「ほんとに行くのか、相原?」
真田が心配そうに眉をひそめる。
「模擬戦で優勝した直後にソロ探索って……大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ただの自主修行だ」
俺は笑いながら背負い袋を整える。
「鍛錬は、一人の方がやりやすいからさ」
「……相変わらずだな」真田は苦笑したが、それ以上止めなかった。
白鳥も不安そうに唇を結び、言葉を探すようにしてから言った。
「無理だけはしないでね。もし危なくなったら……すぐに帰ってきて」
「約束する」
仲間に見送られ、俺は一歩、ゲートの中へと踏み込んだ。
目の前に広がるのは、あの時と同じ地下の闇。
冷たい空気が肺を刺すたび、あの転移の瞬間が蘇る。
(……でも、もうあの時の俺じゃない)
俺は深呼吸し、拳を握り直す。
しばらく歩くと、暗闇の先に小さな影が現れた。
ゴブリンの群れだ。昔はあんなに怖かった相手が、今では拍子抜けするほど小さく見える。
「よし……力を抜いて、投げる」
一匹が飛びかかってくる。
俺は半歩横にずれ、腕を掴んでその勢いを利用する。
――ドンッ!
ゴブリンは壁に叩きつけられ、呻き声をあげて倒れた。
拳を振るっていない。
(……できた。力任せじゃなく倒せた)
小さな成功に、胸の奥がじんわりと熱くなる。
拳を握り直し、ダンジョンを踏破していく。




