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決定的な亀裂が走った瞬間、空間の質が変わった。
それまで張り詰めていた圧が、一気に緩む。
だが同時に、別の異常が立ち上がる。
崩壊。
核の内部から溢れ出していた魔力が制御を失い、裂け目を通じて一斉に噴き出し始める。黒い粒子が逆流し、領域そのものが外側からではなく“内側から”崩れ始めていた。
黒い存在の輪郭が、急速に解けていく。
「……崩壊進行」
声はすでに形を保っていない。
言葉として成立しているのかすら曖昧なまま、断片的に流れ込んでくる。
悠真は一歩引かず、その中心を見据え続ける。
まだ、終わっていない。
亀裂は入った。
だが完全に壊れていない以上、再構成の可能性が残る。
ゼロシンクの中で、その挙動を追う。
魔力の流れが乱れている。
だが、その乱流の中にも“集まろうとする軸”がある。
そこが、最後の一点。
悠真は息を吐く。
ほんのわずかに、重心を落とす。
次で終わらせる。
黒い存在が最後の抵抗を見せる。
崩れながらも、中心に魔力を集め始める。
圧縮。
一点へ。
それは防御ではない。
自壊覚悟の干渉。
「……巻き込む」
意図が伝わる。
この空間ごと、内側から押し潰す。
外にいるレオンたちのいる層にも影響が出る規模。
リーメイが外側で叫ぶ。
「まずい! 全体崩壊来る!」
神谷が歯を食いしばる。
「内部の負荷が限界だ!」
アシュベルが低く言う。
「悠真が決めるしかない」
レオンが笑う。
「やるだろ」
黒瀬が拳を握る。
「決めろ」
その声は届かない。
だが。
悠真はすでに動いている。
ゼロシンクが、限界まで沈む。
時間が完全に止まったように見える。
崩壊していく魔力の流れ。
再収束しようとする核の一点。
そのすべてが、静止した情報として目の前にある。
悠真は踏み込む。
最適軌道。拳を引く。
そして。
振り抜く。
三撃目。
核の中心へ、完全に干渉する一撃。
衝撃は、音を伴わなかった。
ただ、空間が一瞬だけ“抜ける”。
次の瞬間。
黒い中心が、内側から崩壊した。
亀裂が一気に広がる。
制御を失った魔力が、外へではなく“消滅する方向”へ流れ込む。
黒い存在の輪郭が、完全に崩れる。
「……機能停止」
最後の断片的な意識が、静かに消えた。
同時に。
領域が崩れる。
黒い空間が一気に剥がれ落ち、元の神殿の広間へと戻っていく。
悠真の視界が開ける。
音が戻る。
風が戻る。
重力が戻る。
広間の中央、巨大な黒結晶が――
ひび割れていた。
ゆっくりと、崩れ始める。
外側にいたレオンたちの視界にも、それがはっきりと見えた。
黒瀬が呟く。
「……終わったか?」
レオンが笑う。
「いや」
結晶を見る。
「まだだな」
ひび割れた結晶の奥。
そこに、さらに深い“何か”が眠っているのが見えた。




