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ひび割れた黒結晶は、ゆっくりと崩れながらも完全には砕けなかった。外殻だけが剥がれ落ち、内部にあった“本体”が露出していく。
それは結晶ではなかった。
もっと原始的で、もっと直接的なもの。
黒い光の塊。
だが形は一定ではなく、ゆらぎ続けている。まるで圧縮されたエネルギーそのものが、無理やりこの空間に留められているような状態だった。
ドクン。
先ほどまでと同じ鼓動。
だが、質が違う。
リーメイが息を呑む。
「……まだある」
神谷が低く言う。
「外殻が封印だったか」
アシュベルが剣を握り直す。
「本体が出てきたな」
黒瀬が顔をしかめる。
「いやもう勘弁してくれよ」
レオンは楽しそうに笑っていた。
「いいじゃねぇか」
炎を軽く揺らす。
「これが本命だろ」
悠真は何も言わず、その“核”を見ていた。
ゼロシンクはまだ維持されている。
だが、さっきまでとは違う。
あれは“壊せる対象”ではない。
構造が違う。
外殻や騎士のような形を持った存在ではなく、もっと根源的な“流れ”に近い。
黒い光が、ゆっくりと広がる。
空間に染み出すように。
床へ、壁へ、天井へ。
侵食。
黒瀬が一歩下がる。
「……なんか、ヤバくねぇかこれ」
リーメイが即座に言う。
「接触しないで」
神谷も頷く。
「性質が分からない」
黒い光の中心から、再び“声”が流れ込む。
今度ははっきりしていた。
「……外殻破壊、確認」
先ほどの存在とは違う。
もっと深い。
もっと静かな意識。
「干渉体、排除失敗」
言葉が淡々と続く。
「第二段階へ移行」
その瞬間、黒い光が一気に収束した。
一点へ。
そして。
弾ける。
爆発ではない。
圧縮と展開。
黒い光が、広間全体に“広がる”のではなく、“重なる”。
空間が二重に見える。
黒瀬が目を押さえる。
「うわっ……なんだこれ!」
リーメイが叫ぶ。
「位相がズレてる!」
神谷が低く言う。
「同一空間に別層が重なった」
アシュベルが剣を構える。
「つまり?」
レオンが笑う。
「まだ終わらねぇってことだ」
黒い光が、再び形を持ち始める。
今度はゆっくりではない。
明確に“構築”されていく。
腕。
脚。
胴体。
そして。
頭部。
人型。
だが完全な人ではない。
半透明の黒い体。
内部に、先ほどの核がそのまま存在している。
それがゆっくりと目を開く。
黒い瞳。
悠真を捉える。
「……適応完了」
低い声。
「排除」
レオンが笑う。
「お」
炎を強くする。
「やっと殴れるタイプになったな」
黒瀬が拳を握る。
「いいじゃん」
アシュベルも一歩前へ出る。
「全員で行ける」
神谷が盾を構える。
リーメイが魔法陣を展開する。
悠真が拳を握る。
ゼロシンクが、再び深く沈む。
黒い存在が、一歩踏み出した。
次の瞬間。
広間の空気が、再び張り詰めた。




