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 風が吹くたび、崩れた街道に転がる旗切れが、かすれた音を立てた。

 その紋章は、すでに何度も引き裂かれ、上書きされている。

「……全部、上から貼り替えた紋章だな」

 神谷が拾い上げた布を、静かに手放す。

 下に残るのは、元の街の紋様。

 守られるはずだった痕跡。

「支配ってやつは、こうやって始まる」

 アシュベルが淡々と言った。

「力を誇示し、恐怖を植え付ける。

 王様ごっこの基本だ」

 黒瀬が舌打ちする。

「胸クソ悪ぃ。

 なぁ、もういいだろ? 次出てきたやつ、俺が行く」

 その声には、焦りが滲んでいた。

 ここまで、悠真しか戦っていない。

 それが分かっているからこそ、余計に。


 レオンが肩を竦める。

「分かるけどな。

 俺もウズウズしてる」

 そう言って、拳を握る。

 炎が、指の隙間から漏れた。

「相原と並んで歩いてると、

 どうにも“自分が止まってる”気分になる」

 悠真は一瞬だけ視線を落とした。

 何か言いかけて、やめる。

 代わりに、低く言った。

「…どうなんだろうな。俺は、まだ全力が分からないんだ」

 その言葉の意味を、誰も問い返さなかった。


 街道は、やがて“道”と呼べないほど歪み始める。

 地面から伸びる黄金色の根。

 砦へ、砦へと集束するように絡みつく。

「見えるか」

 アシュベルが顎で示す。

 巨大な城門の上。

 無数の人影――いや、腕が垂れ下がっている。

「……あれ、人か?」

 黒瀬の声が低くなる。

「違う」

 神谷が即答した。

「人を“素材”にしてる」

 レオンが、歯を鳴らした。

「反吐が出るな」


 その瞬間だった。

 ――ドン。

 重い衝撃音。

 城門の内側で、何かが“跳ねた”。

 空気が揺れ、

 魔力が一斉にこちらへ流れ込んでくる。

 悠真の足が、無意識に一歩前へ出た。

「来る」

 門が、開く。

 軋み。

 悲鳴のような金属音。

 そして――

 継ぎ接ぎだらけの巨躯が、光の中から姿を現した。

 肩、腰、背中、腕。

 ありとあらゆる部位に、別の“力”が縫い付けられている。

「ほう……」

 歪んだ声が、街道を満たす。

「五人か。

 素材としては、悪くない」

 黒瀬が吐き捨てる。

「は? 人を素材扱いとか、正気かよ」

 巨躯は、笑った。

 口の数だけ。

「王とは、集めるものだ」

 黄金の木の根が、城壁を這う。

 その中心で、そいつは名乗った。

「我こそは――

 百腕王 ゴアドリク」

 神谷が前に出る。

「悠真」

「分かってる」

 悠真は、拳を握った。

 剣も、武器もない。

 ただ、拳だけ。

 背後から、黒瀬の声。

「なぁ。

 今度こそ――俺らもやっていいよな?」

 悠真は、一度だけ振り返り、頷いた。

「……好きにしてくれ」

 その瞬間、

 五人の魔力が、同時に立ち上がった。


初めての作品ですがたくさんの方に読んでいただき感謝しております。

来年もよろしくお願いいたします。

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