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黒瀬が、恐る恐る周囲を見回す。
「なぁ……
さっきの、絶対ボス級だったよな?」
神谷が苦笑する。
「この世界、容赦なさすぎだろ」
レオンは、遠くを見つめていた。
視線の先――
空を裂くようにそびえ立つ、巨大な黄金の木。
「……あそこだな」
その一言で、全員が理解した。
この道は、あそこへ続いている。
道中は、静かだった。
だが、それは安全という意味ではない。
崩れた遺跡、
赤く染みた地面、
折れた剣と、干からびた死体。
時折、魔王軍の斥候が現れるが――
悠真が一歩踏み出すだけで、
魔力が圧し潰すように広がり、
抵抗すら許されず消えていく。
黒瀬が、ぽつりと呟いた。
「……なぁ。
これ、経験値とか入ってるのか?」
「気にするな」
神谷が即答する。
「今は“通行”が目的だ」
だが――
黄金の木が、近づくにつれて。
空気が変わった。
風が止み、音が吸われ、
世界が“待っている”感覚。
その時だった。
橋の上。
ひび割れた石畳の向こうに、
人影が立っていた。
細身。
だが、異様な圧。
黒い外套に、歪んだ仮面。
手には、曲がった杖。
「……来たか」
低く、嘲るような声。
「境界を越える者よ。
王路は――貴様の足で踏む場所ではない」
レオンが、鼻で笑う。
「出たな。
いかにも“門番”って感じだ」
悠真は、前に出た。
相手も、一歩踏み出す。
「私はマギト。ここから先へは進ません。引き返せ」
「嫌だ」
一瞬。
魔力が爆発した。
マギトの杖が振るわれ、
空間から、黒い刃が無数に生まれる。
「っ……!」
黒瀬が身構えるが――
悠真は、動かない。
刃が迫る。
――カン。
ただ左腕を振るっただけ。
刃が弾かれ、
魔力が、逆流する。
マギトの身体が、わずかに揺れた。
「……!?」
その隙は、致命的だった。
悠真は踏み込み、
距離を詰める。
マギトが杖を振り上げる――
その瞬間。
パリィ。
金属音が、橋に響いた。
世界が、止まる。
「――な……」
仮面の奥の声が、震えた。
悠真は、躊躇しない。
拳を突き立てる。
致命の一撃。
胸部に食らった衝撃は、肉体を貫通し魔力核が内側から砕け散った。
マギトの身体が、崩れる。
「……王路へ……
来るがいい……」
その言葉を最後に、
門番は、霧となって消えた。
橋の上に、沈黙が落ちる。
黒瀬が、震える声で言った。
「……今の……
完全にボス戦だったよな?」
神谷は、息を吐く。
「しかも……パリィ、致命……」
レオンは、心底楽しそうに笑った。
「ははっ……!
最高だな、相原」
悠真は、黄金の木を見上げる。
「……行こう」




