表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/514

254

 荒れ果てた大地の向こう、

 雲を突き抜けるように――巨大な黄金の木が立っていた。

 枝は空を裂き、

 葉は光を孕み、

 まるで世界そのものを縫い止めているかのようだ。

 黒瀬が、思わず口を開けた。

「……なぁ。

 あれ、どう考えても行く場所だよな」

「ボスの城だな」

 神谷が即答する。

 レオンは、ゆっくりと笑った。

「間違いねぇ。

 “呼んでる”ってやつだ」

 悠真は何も言わず、ただその樹を見ていた。

 懐かしいわけじゃない。

 怖いわけでもない。

 ――行かなきゃいけない。

 それだけが、胸の奥に沈んでいる。

「……とりあえず、歩くか」

 悠真がそう言うと、

 第零班は自然と並び、黄金の木へ向かって歩き出した。


 最初に気づいたのは、音のなさだった。

 風は吹いている。

 草も揺れている。

 だが、生き物の気配がない。

 代わりに――

 丘の上に、膝をついた魔物の死骸。

 道端に突き刺さった、用途不明の巨大な剣。

 半壊した石造りの建物と、焼け落ちた祈祷所。

 黒瀬が顎を引いた。

「……戦場跡、だよな」

「しかも、最近だ」

 レオンが地面を蹴る。

「魔王軍が撤いてる。

 いや……整列して下がってるな」

 悠真は、魔物の死骸を一瞥した。

 首が落ちている。

 一撃。

 抵抗の痕跡すらない。

(……ガル=ヴァルド)

 あいつが通った“道”だ。


 黄金の木へ続く街道に出た、その瞬間だった。

 地面が、揺れた。

 遠くで――

 鈍く、規則的な振動音。

 馬の蹄だ。

「……来るぞ」

 レオンが低く言った、その直後。

 丘の向こうから現れたのは、

 黄金に覆われた騎士だった。

 全身を包む重厚な鎧。

 曇りのない金色。

 そして、その騎士を背に乗せる、異様に大きな戦馬。

 右手には、

 建物ほどもある巨大な戦斧槍。

 その姿は、まるで――

 この道を進む資格があるかを試す門番。

 黒瀬が、思わず唾を飲み込む。

「…な…なぁ、あれ……

 どう見ても“雑魚”じゃなくね?」

「ボスだな」

 神谷が即断する。

「街道のど真ん中に置くタイプの」

 騎士は何も言わない。

 だが、馬の向きを変え、ゆっくりとこちらを正面に捉えた。

 魔力圧が、街道を満たす。

 空気が、張り付く。

 次の瞬間。

 黄金の騎士が、迷いなく踏み込んだ。

 戦馬が地を蹴り、

 斧槍が――必殺の軌道で振り下ろされる。

 本来なら、

 受ければ潰れ、避ければ薙がれ、

 どちらにせよ“死”しか残らない一撃。

 黒瀬が叫ぶ。

「無理だ、相原――!」

 だが。

 悠真は、一歩だけ前に出た。

 構えはない。

 武器もない。

 ただ、

 斧槍が落ちてくる“瞬間”を――

 見切った。

 カン、と。

 乾いた音が、世界に一つだけ鳴った。

 悠真の拳が、

 斧槍の“力が乗り切る前”を、正確に叩いていた。

 完璧なタイミング。

 衝撃が、逆流する。

 黄金の斧槍が、

 ありえない角度で弾かれ、

 騎士の体勢が、完全に崩れた。

「――なっ」

 その一瞬。

 悠真は、もう踏み込んでいた。

 腰の回転。

 地面からの反発。

 すべてが“無駄なく”重なり合う。

 拳が、

 黄金の胸当てに――叩き込まれる。

 音はしなかった。

 衝撃だけが、遅れて来た。

 騎士の身体が、内側から砕け、

 鎧が歪み、

 戦馬ごと、後方へ吹き飛ぶ。

 重たい鎧が地面を削り、

 数十メートル先で、ようやく止まった。

 砂埃が晴れる。

 黄金の騎士は、

 膝をつき――

 次の瞬間、

 霧となって散った。

 完全な消滅。

 フィールドが、静まり返る。

 黒瀬が、口を開けたまま呟く。

「……今の……

 受けて、弾いて、殴った……?」

 神谷が、喉を鳴らす。

「……パリィ、だな」

 レオンは、愉快そうに笑った。

「はは……

 お前、ほんとに人間か?」

 悠真は、拳を見下ろし、静かに息を吐く。

「……少し、重かったな」

黒瀬が、呆然と呟く。

「……なんかお前どんどん強くなってねえか?」

「戦闘のセンスがこちらの世界で磨かれているのか?」

 アシュベルが肩をすくめ、笑う。

「王道を進む権利をもらったってやつだ」

 悠真は、黄金の木を見上げる。

「……行こう」

 王の元へ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ