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 ガル=ヴァルドの姿が消えたあと、

 魔王領近郊の大地には、しばらく風の音だけが残っていた。

 砕けた岩。抉れた地面。

 そして、魔王と“殴り合った痕跡”。

 黒瀬がゆっくりと息を吐く。

「……なぁ。

 これ、夢じゃねぇよな?」

「現実だな」

 神谷が即答した。

「俺の腕、まだ痺れてる」

 レオンは大きく肩を回し、楽しそうに笑う。

「はは……やっぱ最高だな。

 魔王ってやつは、こうじゃねぇとな」

 悠真は、地平線の向こう――

 ガル=ヴァルドが消えた方向を見つめたまま、しばらく黙っていた。

「……来い、か」

 地図はない。

 目印もない。

 次にどこへ向かえばいいかも分からない。

 それでも。

「とりあえず――」

 悠真は一歩、前に出た。

「さまよってみるか」

「雑すぎだろ!」

 黒瀬が即ツッコむ。

「魔王領だぞ!?

 “さまよってみる”って言葉、一番使っちゃダメな場所だろ!」

「でもよ」

 レオンが肩をすくめる。

「動かねぇと何も始まらねぇ。

 あいつも、それを分かって言ってる」

 神谷も頷いた。

「敵は“待ってる”。

 なら、近づくしかないな」

 こうして第零班は、

 明確な目的地もないまま――

 魔王領の奥へと歩き出した。


 数時間後。

 赤黒い霧の向こうで、

 異様な気配が蠢いた。

 黒瀬が立ち止まる。

「……来るぞ」

 霧が割れ、現れたのは魔王軍の巡回兵。

 角を持つ魔族が数体、無言で陣形を組んでいた。

 その動きは、地球のモンスターとは明らかに違う。

 無駄がなく、殺すことだけに最適化されている。

「……なぁ」

 黒瀬が小声で言う。

「これ、経験値とか言っていい相手か?」

「言うな」

 神谷が前に出る。

「覚悟決めろ」

 戦闘は短かった。

 連携。

 魔力刃。

 魔導結界。

 魔王軍は確かに強かったが――

 それ以上に、第零班は“もう前とは違った”。

 最後の一体を倒した瞬間。

 ――雷鳴。

 轟音が空を裂き、

 地面に稲妻が突き刺さる。

 全員が反射的に身構えた、その中心で。

「……無駄な戦い方だな」

 低く、落ち着いた声。

 雷を纏い、悠然と立つ男がいた。

 悠真の目が、見開かれる。

「……アシュベル」

 アシュベル・フォン・アイゼンリヒト。

 十支族の一人にして、学友。

 そして――ライバル。

 アシュベルは悠真を一瞥し、鼻で笑った。

「やはり来ていたか。

 お前が動かないはずがないと思っていた」

 黒瀬が小声で呻く。

「……マジかよ。

 十支族、観光気分で異世界来すぎだろ」

「観光ではない」

 アシュベルは淡々と答えた。

「必要だから来た」

 レオンがニヤリとする。

「ほぉ?

 じゃあ、他にもいるってことか?」

 アシュベルは、雷を収めながら言った。

「すでに何人かは門を越えている。

 魔王領は――動き始めている」

 悠真は、静かに拳を握った。

 ガル=ヴァルド。

 リグレア。

 そして、魔王軍。

 この世界は、確実に“戦場”へ向かっている。

「……そうか」

 悠真は顔を上げ、アシュベルを見る。

「だったら、迷ってる暇はないな」

 雷と魔力が交錯する魔王領で、

 再び――物語は、大きく動き始めていた。



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