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 黒瀬も神谷も、軽口を叩く気分ではないらしい。

 さっきまでの雑談の余韻は、完全に消えていた。

 悠真は、ゆっくりと拳を握る。

 ――魔王たちが、動き始めた。

 しかも理由は、はっきりしている。

 自分だ。

「……なぁ、相原」

 先に口を開いたのは神谷だった。

「お前、どうするつもりだ」

 悠真はすぐには答えなかった。

 窓の外、アルセリアの夜景を見つめる。

 人がいて、生活があって、

 今日も普通に眠りにつこうとしている街。

 ――この街を、戦場にするわけにはいかない。

「逃げるって選択肢は?」

 黒瀬が、あえて軽い口調で言う。

「地球に戻るって選択肢も」

 その言葉は、間違っていない。

 合理的で、正しくて、責任ある判断だ。

 でも。

「……それだと」

 悠真は、低く答えた。

「追ってくる」

 二人が黙る。

「ああいうやつは、

 門の向こうへ帰ったところで諦めない」

 侵略派の魔王も、戦闘狂の魔王も。

 “ゼロがいる世界”を放置する理由がない。

「だったら――」

 悠真は、振り返った。

「向こうで止めるしかない」

 黒瀬が目を見開く。

「魔王領に、行くってことか?」

 悠真は、はっきりと頷いた。

「俺が原因なら、俺が引き受ける。

 アルセリアでも、地球でもなく――

 魔王の世界で」

 神谷が苦笑する。

「……ほんと、そういうとこだよな。

 英雄ムーブってやつ」

「英雄じゃない」

 悠真は即座に否定した。

「俺はただ……」

 一瞬、言葉を探してから続ける。

「これ以上、巻き込みたくないだけだ」

 沈黙。

 そして、黒瀬が大きく息を吐いた。

「……分かったよ」

 彼は、肩をすくめて笑う。

「一人で行くって言っても、どうせ無理だろ?

 だったら――最初から付き合う」

 神谷も、静かに頷いた。

「第零班だ。

 今さら一人で背負うな」

 悠真は、一瞬だけ目を伏せてから、小さく笑った。

「……ありがとう」


 そのとき、通信端末が再び光る。

 ノヴァからだ。

『決めた?』

「はい」

 悠真は、迷いなく答えた。

「魔王領へ行きます」

 少しの沈黙。

『……やはり、そう言うと思ったわ』

 ノヴァの声は、どこか安堵しているようでもあった。

『準備はこちらで整える』

『ただし――これは正式な任務じゃない』

「分かってます」

『“ゼロ個人の選択”よ』

『戻れなくなる可能性もある』

 悠真は、夜景から目を離し、前を見据えた。

「それでも行きます」

『……了解』

 通信が切れる。

 部屋に残ったのは、決意の余韻だけ。


 悠真は、心の奥で静かに思った。

 ――魔王領。

 そこは敵の世界で、戦場で、

 そして――答えがある場所だ。

 逃げない。

 背を向けない。

 ゼロとしてではなく、

 相原悠真として。

 彼は、魔王の世界へ向かうことを選んだ。


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