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黒鉄と深紫の魔力が渦巻く、別の魔王城。
玉座に座る巨躯の魔王が、片肘をついたまま低く笑った。
「…ふむ…」
覇王オル=マギナ。
侵略派魔王の筆頭。
世界を“征服するもの”として生きてきた存在。
彼の前には、数刻前の記憶が投影されていた。
――人間。
――黒髪。
――名を、ゼロ。
あの瞬間。
指を鳴らし、放ったはずの魔力の刃。
本来なら都市を一つ、跡形もなく消し飛ばす規模。
だが――
「消えた……いや、消されたか」
オル=マギナは舌打ちする。
防がれたのではない。
相殺でも、打ち消しでもない。
拒絶。
世界そのものが、「そこに存在することを許さなかった」ような感覚。
「魔王の力を、世界が否定した……?」
そんなことが、あっていいはずがない。
だが、現実は否定できなかった。
あの人間は、動かなかった。
構えなかった。
力を解放した様子すらなかった。
――それでも、魔王の一撃は通らなかった。
「ふん……」
オル=マギナは、口元を歪める。
「ゼロ……か」
忌々しい名だ。
そして、同時に――興味深い存在。
「世界を壊す者ではない」
「だが、世界に“拒否されない”存在……」
それは侵略者にとって、最悪の相手だった。
城内に控えていた配下が、声を潜めて進言する。
「覇王様……深淵姫は、静観を選ぶ構えです」
「だろうな」
オル=マギナは、即答した。
「リグレアはあいつは腰抜けだ。
世界がどう壊れるかを、じっくり眺めるタイプだろう」
そして、玉座から立ち上がる。
「だが――俺は違う」
魔力が、城全体を震わせる。
「壊れる前に、奪う」
「使えるなら、使う」
「潰せるなら、潰す」
それが侵略派の論理。
「ゼロが“育つ”前に、地球という世界を押さえる」
「それが、一番手っ取り早い」
覇王は、低く笑った。
「……十支族か。
あいつら、いいタイミングで動いてくれたじゃねぇか」
同じ魔王領。
だが、オル=マギナの城とはまるで違う空気。
壁は砕け、天井は吹き飛び、
城というより“巨大な闘技場”に近い空間。
中央で、上半身裸の魔王が腕を組んでいた。
闘天王ガル=ヴァルド。
覇王でも、策士でもない。
ただひたすらに――戦うために存在する魔王。
「ははっ……!」
彼は、楽しそうに笑った。
「聞いたぞ。
ゼロってやつ、マジでやばいらしいな」
側近の魔族が慎重に言葉を選ぶ。
「……はい。
覇王オル=マギナ様ですら、手応えを感じなかったと」
「最高じゃねぇか」
即答だった。
「魔王の攻撃を“拒否”?
そんな人間、初めてだ」
ガル=ヴァルドは、拳を握る。
骨が軋み、空間が歪む。
「怖がる理由がねぇ」
「逃げる理由もねぇ」
ただ一つ。
「――殴りたい」
側近が慌てて制止する。
「お待ちください!
深淵姫は、静観を――」
「知るか」
ガル=ヴァルドは、歯を剥き出しにして笑った。
「育てる?
観測する?
侵略する?」
肩をすくめる。
「全部どうでもいい」
そして、はっきりと言い切った。
「強いなら、戦う」
「強くなるなら、追いかける」
「死んだら……まあ、その程度だったってだけだ」
闘天王は、天を仰ぐ。
「なぁ、ゼロ」
「お前、逃げんなよ?」
その言葉と同時に、
彼の足元に、戦場へと繋がる魔導円が浮かび上がった。




