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転移陣の光が収まり、
第零班は再びアルセリア外縁の転移広場に降り立った。
さっきまでの重圧が嘘のように、
都市特有の魔力循環音と、人の気配が戻ってくる。
「……生きて帰れたな」
黒瀬が肩を回しながら言う。
「正直、あのまま戦闘になってたら終わってたぞ」
神谷も珍しく同意した。
「悠真が止めなきゃ、撤退すら怪しかった」
悠真は何も答えず、
ただアルセリアの結界ドームを見上げていた。
(あれが…他の魔王か)
胸の奥に、言葉にできない違和感が残っている。
ARC本部・下層の簡易ブリーフィングルーム。
残留していた地球側研究員と、ARCの観測官数名が集まっていた。
ミランダが腕を組み、険しい顔で言う。
「戻ってきたってことは……
向こう、何かあったのね?」
悠真が前に出る。
「さっきダンジョンで魔王クラスと接触しました」
室内が一瞬で静まり返る。
研究員の一人が、喉を鳴らす。
「……交戦は?」
「最小限です。
向こうは“様子見”だった」
ミランダは小さく舌打ちした。
「最悪のパターンね。
本気になる前段階ってやつ」
ミランダが端末を操作し、
ARC側の最新観測ログを空中に展開する。
「……それと、もう一つ」
表示されたのは、
複数の高出力反応ポイント。
アルセリア郊外。
古代遺跡帯。
そして、魔王領縁辺。
「数時間前から、
地球由来と思われる反応が複数確認されてる」
黒瀬が目を見開く。
「……それって」
神谷が低く唸る。
「やっぱりか……」
「正式な合流連絡はまだ。
でも、反応パターンは間違いない」
悠真は、ゆっくりと息を吐いた。
(俺たちだけじゃなかった)
(もう、“最上位”は動き始めてる)
ミランダが視線を向ける。
「つまり――
アルセリアは、これから一気に騒がしくなる」
「地球側も、
異世界側もね」
報告を終え、部屋を出る直前。
黒瀬が苦笑する。
「なぁ悠真」
「これさ……
俺ら、合流した瞬間に殴り合いとかならねぇよな?」
神谷が即答した。
「なる」
「だよなぁ……」
悠真は、静かに言った。
「でも、行くしかない」
「もう、始まってるから」
アルセリア外縁区、
冒険者連盟の高層テラス。
夜風が、わずかに熱を帯びて吹き抜けていた。
「……やっぱり来やがったか」
レオン・グレンデルは、
遠くに浮かぶ魔導灯の列を眺めながら、低く呟く。
――十支族。
反応だけで分かる。
この世界に足を踏み入れた瞬間の“癖”が、嫌というほど似ている。
(慎重なやつ、
様子見のやつ、
最初から喧嘩腰のやつ……)
「はっ。世界が変わったってのに、
考えることは変わらねぇな」
レオンは、柵に肘をついた。
「……侵略派、か」
魔王の中にも種類がある。
それはもう、身をもって知っている。
・戦うために存在するやつ
・支配するために動くやつ
・そして――
(地球を“獲物”として見てるやつ)
それが一番、厄介だ。
ふと、脳裏に浮かぶのは――
あの、気の抜けた顔。
(相原……)
「お前、ほんと変なやつだよ」
レオンは苦笑する。
身体能力上昇(E)。
あんな表記で済ませていい存在じゃない。
(あいつは“強くなった”んじゃねぇ)
(最初から、
踏み込んじゃいけねぇ場所に足突っ込んでる)
だからこそ――
「……面白ぇ」
レオンの口元が、ゆっくり歪んだ。
「俺がここに来た意味も、ようやく見えてきた」
アルセリアに入った十支族の連中は、
きっとこう考えている。
――異世界は、力の宝庫だ。
――先に押さえた者が勝つ。
レオンは鼻で笑った。
「浅ぇんだよ」
「ここは“強くなる場所”じゃねぇ」
「試される場所だ」
強さだけで来たやつは、
必ずどこかで折れる。
(……相原は違う)
あいつは、
強くなる理由を“外”に持ってる。
「よし」
「とりあえず、
あいつらが合流する前に――」
「相原に一発、忠告しとくか」
炎が、はっきりと揺れ上がる。
「侵略派魔王も、
十支族も、
まとめて相手にする羽目になりそうだ」
「……最高じゃねぇか」
夜のアルセリアに、
炎の気配が溶けていった。




