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G.O.D本部の円卓会議室は、普段ならばどんな非常事態でも冷静さを失わない場所だ。

――だが、その日だけは違った。

「……もう一度言え」

篠原の声は低く、押し殺されていた。

通信オペレーターは唾を飲み込み、震える指で端末を操作する。

「英・独・仏・露・中……

 十支族達が、各国の門を単独で通過しました」

一瞬、空気が凍りついた。

次の瞬間。

「……ッ、クソが!!」

篠原の拳が机に叩きつけられ、重い音が会議室に響いた。

珍しい。

彼が感情を露わにする姿を、悠真はほとんど見たことがなかった。

「だから言っただろう!」

軍部代表が声を荒げる。

「国際合意も、指揮系統も整っていない状態で――!」

研究主任が青ざめた顔で続けた。

「異世界側から見れば、どう見えると思っているんですか……!

 世界中から侵入が始まったと認識されかねません!」

法務担当は頭を抱えた。

「責任の所在はどうするんです!?

 彼らは国家の象徴ですよ……!」

篠原は歯を食いしばり、吐き捨てるように言った。

「……分かっている。

 だが、あいつらは“行ける”と思った瞬間に行く」

その言葉に、誰も反論できなかった。

十支族。

人類の最上位戦力。

同時に、誰よりも制御が効かない存在。


沈黙を破ったのは、凛だった。

「問題は、“行った”ことじゃありません」

全員の視線が集まる。

「別々に行ったことです」

会議室の温度が、一段階下がった。

「情報共有なし、連携なし。

 それぞれが独自判断で異世界に踏み込んだ」

凛は淡々と続ける。

「魔王側から見れば、

 これは探索でも外交でもない」

一拍。

「――侵略です」

誰かが、喉を鳴らした。

「魔王領が警戒態勢に入るのは確実だな……」

軍顧問が低く呟く。

「下手をすれば、

 “地球は敵だ”という認識が固定される」

研究主任が青ざめる。

「それでは……

 悠真くんたちが築いた関係も……」

篠原は椅子にもたれ、天井を仰いだ。

「……だからこそ、だ」

会議室の空気が、ゆっくりと動く。

全員の視線が――

第零班へと向けられた。

黒瀬が肩をすくめる。

「……来たな」

神谷もため息をついた。

「十支族が勝手に動いた後始末、

 いつも俺らだ」

悠真は黙ったまま、篠原を見つめる。

篠原は深く息を吸い、言った。

「……相原」

悠真は静かに頷く。

「もう一度、エルテラへ行ってもらう」

会議室がざわつく。

「命令ではない」

篠原はすぐに付け加えた。

「だが、今の状況で――

 最も適任なのは、お前たちだ」

凛が続く。

「アルセリアと話が通じる。

 ARCとも信頼関係がある。

 そして――」

一瞬、言葉を選ぶ。

「異世界を“敵ではない”と知っている」

悠真は少しだけ目を伏せた。

頭をよぎるのは、

アルセリアの夜景。

冒険者たちの笑顔。

そして――魔王領で感じた、あの“懐かしさ”。

「……十支族の尻拭い、ってわけですね」

篠原が苦く笑う。

「言うな」

一拍。

悠真は顔を上げ、はっきりと言った。

「行きます」

黒瀬が即座に続く。

「だよな」

神谷も肩をすくめる。

「今さら引けねぇ」

凛は一瞬だけ目を伏せ、そして静かに言った。

「……無茶だけは、しないで」

篠原は頷き、宣言する。

「第零班。

 再渡航準備に入れ」

世界は、すでに動き出していた。

十支族は先に踏み込み、

そして――

ゼロを中心に、

二つの世界の歯車が、再び噛み合おうとしていた。



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