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答えは、最初から分かっていた。
――全員は行けない。
だが、それを“公式に言葉にする”ことは、
世界を敵に回す覚悟と同義だった。
再び、各国代表がホログラムで集結していた。
空気は重い。
誰もが分かっている。
今日の議題は、
理想を語るためのものではない。
篠原が、淡々と口を開いた。
「――異世界渡航の“選別基準”を決定する」
ざわめきが走る。
それはつまり、
誰に夢を与え、誰から奪うかを決めるということだった。
軍代表が即座に発言する。
「結論は明白だ。
まずは戦闘能力と精神耐性を持つ者のみを渡航対象とすべきだ」
「異世界は危険地帯だ。
一般人を送るなど、自殺行為に等しい」
モニター越しに、何人かが頷く。
理屈としては、正しい。
だが――
別の代表が、低く言った。
「それでは、“選ばれた兵士”だけの世界になる。
それこそ、反発を招くだろう」
「完全な能力主義は危険です。
公平性を担保するため、一定数は抽選で選ぶべきでは?」
その瞬間、
軍部の表情が一斉に険しくなる。
「冗談じゃない。
運で選ばれた人間を、異世界に送るのか?」
「だが、“平等”を示さねば民意は抑えられない!」
声が荒くなり、議論は平行線を辿る。
そこで、凛が一歩前に出た。
「――現実的な案があります」
全員の視線が集まる。
「異世界渡航は、段階的に解放する。
初期段階では――」
凛は、はっきりと告げた。
「G.O.D管理下の探索者・研究者・外交要員のみ」
会議室が静まり返る。
「一般市民は対象外。
理由は単純です」
凛は、迷いなく言った。
「――守れないから」
誰も反論できなかった。
その時。
陪席の席に座っていた悠真は、
拳を、強く握りしめていた。
(……選別、か)
分かっている。
理屈も、必要性も。
だが――
新宿で見た、あの若者たちの顔が脳裏をよぎる。
期待。
焦燥。
希望。
そして、失望。
(俺は……もう、向こうを見てしまった側だ)
言葉を持たない側の気持ちを、
知ってしまった側だ。
篠原が、最終判断を下す。
「よろしい。
異世界渡航は――当面、完全管理制とする」
「選別基準は以下の通りだ」
■ 異世界渡航・暫定基準(決定)
・G.O.Dまたは各国政府の正式管理下
・身体・精神・適性検査を通過した者
・任務・研究・外交など明確な目的を持つ者
・一般市民の自発渡航は全面禁止
淡々と読み上げられるその内容は、
多くの人間の“夢”に、静かに蓋をした。
篠原は、最後にこう付け加えた。
「これは“拒絶”ではない。
――時間を稼ぐための決断だ」
だが、その言葉を
世界がどう受け取るかは、分からない。
会議が終わり、
人がまばらになった円卓室で。
凛が、悠真に小さく声をかけた。
「……つらい?」
悠真は、少し考えてから答えた。
「正しいと思う。
でも……優しくはないですね」
凛は、わずかに微笑む。
「世界は、だいたいそうよ」




