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 世界同時記者会見から、三日。

 各国政府は「冷静な対応」を呼びかけ続けていたが、

 その言葉が届く前に――人々の感情が先に動いた。

 最初は小さな集まりだった。

 役所の前。

 研究機関の近く。

 そして――“門がある”と噂される場所の周辺。

 プラカードを掲げる人間は、まだ数十人程度。

「情報を公開しろ」

「異世界渡航の基準を示せ」

「一部の人間だけが独占するな」

 声は荒れていない。

 むしろ、切実だった。

 だが、その映像が配信され、切り抜かれ、拡散されると――

 状況は一気に変わった。


 東京。

 政府関連施設の前に、人が集まり始める。

 警察の規制線の向こう側で、誰かが叫んだ。

「異世界はもう“現実”なんだろ!?」

「だったら、俺たちにも行く権利があるはずだ!」

 それに呼応するように、別の声が重なる。

「人生をやり直せる場所があるなら、行きたいに決まってる!」

「病気も、貧乏も、全部置いていけるかもしれないんだぞ!」

 SNSでは、すでに統一された言葉が使われ始めていた。

「異世界渡航権」

 それは、誰が決めたわけでもない、

 しかし多くの人が“当然あるべきもの”だと信じ始めた言葉だった。


 G.O.D臨時オペレーションルーム。

 モニターには、世界各地のライブ映像が映し出されている。

 篠原は、深く息を吐いた。

「……早いな」

 凛が腕を組んだまま答える。

「ええ。

 まだ“行ける”とすら発表していないのに、これですから」

 画面には、

 異世界の存在を肯定する者。

 陰謀論を叫ぶ者。

 政府を罵倒する者。

 すでに、冷静な議論はほとんど見当たらなかった。

「人は“可能性”に耐えられないんだ」

 篠原が、低く呟く。

「特に、それが“人生を変える可能性”ならな」


 その頃、学園の校舎裏。

 悠真、黒瀬、神谷の三人は、スマホを見ながら黙っていた。

 画面に流れてくるのは、デモの映像。

 黒瀬が、乾いた笑いを漏らす。

「……なぁ。

 俺たち、異世界行っただけだよな?」

「だけ、って言える状況じゃなくなってきたな」

 神谷が視線を逸らす。

 悠真は、言葉を探しながら口を開いた。

「……みんな、行きたいんだと思う。

 強くなりたいとか、冒険したいとかじゃなくてさ」

 二人が、悠真を見る。

「“今の世界じゃどうにもならない”って思ってる人が、

 想像以上に多いんだ」

 黒瀬は黙り込み、

 神谷は小さく舌打ちした。

「だからって、無秩序に門を開けたら終わりだ」

「分かってる」

 悠真は頷く。

「……だから、俺たちが行く意味があるんだと思う」

 二人は、何も言わなかった。

 否定もしない。

 肯定もしない。

 ただ、

 世界が“門の向こう”を見始めたことだけは、

 全員が理解していた。


 その夜。

 G.O.D本部に、各国から緊急連絡が入る。

「デモ参加者が一万人規模に拡大」

「門周辺への無断接近が増加」

「一部で、突破を試みる動きあり」

 凛は、拳を握りしめた。

「……もう、“発表しただけ”では済まない段階ね」

 篠原は、静かに結論を口にする。

「次は――“制御”だ」

 異世界は、

 まだ遠くにあるはずだった。

 だが人類は、

 もう自分たちの足で、そこへ向かおうとしている。

 そしてその先で、

 何が待っているのかを――

 誰も、まだ知らない。



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