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 その“余波”は、静かに――しかし確実に、世界中へ広がっていった。

 テレビ局は速報テロップを連打し、

 ネットニュースは一斉にトップを差し替える。

【速報】異世界の存在を公式に認める

【G.O.D声明】「門は国家管理下」

【一般渡航は禁止】

 文字だけを追えば、冷静で、理性的で、慎重な発表だった。

 だが――受け取る側の感情は、そんな整理の仕方をしない。

 街頭ビジョンの前で、人々が立ち止まる。

「……異世界? マジで?」

「CGじゃないのか?」

「国家が嘘つくわけないだろ……」

 誰かが冗談めかして笑い、

 誰かがスマホを握りしめ、

 誰かが黙ったまま画面を見つめていた。

 その日のSNSは、完全に“異世界”に支配された。

「行きたい」

「怖い」

「選ばれた人間だけの特権だろ」

「人生変えられるチャンスじゃん」

 ハッシュタグが雪崩のように生まれ、消え、また増える。

 #異世界は存在した

 #門を開けろ

 #次は誰が行く

 誰もが、自分なりの「異世界」を語り始めた。


 討論番組では、専門家と名乗る人間たちが席を奪い合っていた。

「これは人類史上最大の転換点です」

「いや、過去の大航海時代と同じですよ」

「管理を誤れば、取り返しのつかないことになる」

 言葉は強く、断定的で、

 しかしそのほとんどが――“まだ誰も知らないこと”だった。

 それでも人は、知らないままではいられない。

 だから想像し、

 だから期待し、

 だから恐れる。

 一方、帝都探索学園。

 放課後の校舎は、いつもと変わらないはずなのに、

 どこか落ち着かない空気が漂っていた。

「なぁ、異世界ってさ……」

「もし能力とか覚醒したらどうすんだ?」

「俺、探索者志望だったしワンチャン……」

 そんな声が、廊下のあちこちから聞こえてくる。

 悠真は、教室の窓際に座りながら、

 校庭を見下ろしていた。

 いつもの風景。

 いつもの日常。

 ――なのに。

(……もう、戻れないんだろうな)

 世界は知ってしまった。

 門があり、

 向こう側があり、

 そして“行ける可能性”があることを。

 凛の言葉が、ふと頭をよぎる。

「人はね、希望を知った瞬間から、我慢できなくなるの」

 今はまだ、小さな波だ。

 デモも、暴動も、起きていない。

 だが悠真には分かっていた。

 この“余波”は、

 やがて大きなうねりになり、

 誰かを押し流し、

 誰かを巻き込み、

 そして――門へ向かう。

 悠真は、静かに息を吐いた。

(……俺たちは、もう前に進むしかない)

 世界が現実を飲み込み始めた、その日。

 それは、嵐の始まりに過ぎなかった。



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