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世界同時記者会見から、二時間。
地球は、はっきりと「昨日までとは違う世界」になっていた。
日本 ― 新宿門周辺
新宿の空気は、張りつめていた。
門の周囲には、自衛隊と警察、そしてG.O.Dの部隊が何重にも配置されている。
その向こう側――規制線の外には、人、人、人。
スマホを掲げる者。
叫ぶ者。
呆然と立ち尽くす者。
「異世界だってよ……」
「ゲームの話じゃなかったのか?」
「行けば強くなれるんだろ?」
「俺も行けるのかな……」
事実と噂と妄想が、区別なく混ざり合っていく。
――門の向こうに、人生を変える何かがある。
そんな空気が、確実に広がり始めていた。
アメリカ ― ニューススタジオ
討論番組では、軍関係者と学者が声を荒げている。
「異世界は新たなフロンティアだ」
「主導権を失えば、国家の未来はない」
「渡航は“選ばれた人間”に限定すべきだ」
画面の下に、小さなテロップが流れた。
《炎の十支族・グレンデル卿、生存確認》
一瞬、スタジオが静まる。
「……やはりか」
「英雄は、もう向こう側にいる」
“行ける側”と“行けない側”。
その線引きが、音もなく始まっていた。
ヨーロッパ ― 学会と教会
学会では、異世界理論の論文が雪崩のように投稿される。
教会では、声明が乱立した。
「神の創造物である」
「人類への試練である」
「悪魔の罠である」
だが――
どんな言葉も、現実には勝てなかった。
門は、確かに存在している。
帝都探索学園 ― 放課後の教室
教室は、落ち着きを失っていた。
「なぁ相原、異世界って本当にあるんだな」
「探索学園のやつ、もう行ってるらしいぞ」
「ステータスが見えるってマジ?」
悠真は、窓の外を眺めたまま答えなかった。
(……まだ、何も知らない)
その事実が、少しだけ胸に引っかかる。
白鳥朱音が、ぽつりと言う。
「……世界、変わっちゃったね」
悠真は、静かに頷いた。
「うん。でも――」
少し間を置いて、続ける。
「本当に変わるのは、これからだと思う」
G.O.D本部 ― 地下会議室
巨大モニターには、世界各地の混乱が映し出されていた。
凛が淡々と報告する。
「門周辺への接近者、想定の三倍」
「“異世界志願者”を名乗る者が、各国で確認されています」
篠原は、深く息を吐いた。
「……分かってはいたがな」
彼は、低い声で言う。
「世界はもう、“待て”を聞かない」
悠真は、その言葉を黙って聞いていた。
無数の人間が、同じことを考えていた。
異世界へ行きたい。
強くなりたい。
何かを変えたい。
その中心に、
ひとりの少年がいることを――
まだ、誰も知らない。




