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 G.O.D本部・円卓型会議室。

 分厚い遮音壁に囲まれた空間には、

 円卓を囲むように複数の席が設けられていた。

 実際に腰掛けているのは一部のみ。

 そのほかの席には、淡い光をまとったホログラムが浮かぶ。

 アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国。

 軍、研究、法務。

 それぞれの代表が、無言のまま円卓を見下ろしていた。

 室内に流れる空気は、異様なほど静かだ。

 誰も雑談をしない。

 誰も視線を逸らさない。

 ――ここが、世界の“分岐点”になることを、

 全員が理解していた。

 円卓の一角。

 天城凛は背筋を伸ばし、資料端末を膝の上に置いていた。

 その横、少し距離を取った位置に、相原悠真が立っている。

 彼には席がない。

 発言権もない。

 “陪席”――ただ、そこにいるだけの立場だ。

 それでも、

 いくつもの視線が、無意識のうちに彼へ向いていた。

 ――門を越えた者。

 ――異世界を歩いた者。

 ――そして、誰も口に出さない“特異点”。

 やがて、円卓の中央に立つ男が、静かに息を吸った。

 篠原だった。

 年季の入ったスーツ姿。

 だが、その声音には、いつもの研究者然とした柔らかさはない。

 彼は円卓を一瞥し、淡々と告げる。

 「――これより、

  G.O.D非公開最終会議を開始する」

 わずかな電子音とともに、

 会議室の外部回線がすべて遮断された。

 逃げ道はない。

 猶予もない。

 篠原は、言葉を選ぶことなく続ける。

 「本日決めるのは、ただ一つ」

 一瞬、間を置く。

 その沈黙が、重い。

 「――異世界の存在を、隠し続けるか。

   それとも、世界に伝えるか。」

 その言葉が落ちた瞬間、

 会議室の空気が、目に見えて変わった。

 誰かが喉を鳴らす。

 誰かが無意識に背筋を正す。

 世界の行方を左右する選択が、

 今、この場で下されようとしていた。

 悠真は、何も言わず、ただ円卓を見つめていた。

 ――これは、自分の問題でもある。

 だが、自分が決める話ではない。

 そんな歪な立場に立たされていることを、

 彼自身が、誰よりも強く感じていた。

 非公開最終会議は、

 静かに、しかし確実に動き始めた。


 篠原が円卓の中央で端末を操作すると、

 会議室の上空に複数のホログラムが展開された。

 地図。

 時系列。

 観測データ。

 映像ログ。

 どれもすでに、この場にいる者たちが一度は目を通した資料だ。

 だが――“最終判断”の前に、改めて整理する必要があった。

 「まず、我々が把握している事実を確認する」

 篠原の声は淡々としている。

 「憶測、希望、恐怖――それらは一旦すべて脇に置く。

  ここでは“確認された事実のみ”を扱う」

 ホログラムが切り替わる。


 第一に、門。

 新宿を含む、各国十支族の本拠地付近。

 それぞれ異なる座標で発生した“門”。

 「門は現在も安定して存在している。

  閉鎖も破壊も不可能。

  人為的に制御できる段階にはない」

 軍事顧問の一人が、低く唸る。

 「つまり……“消せない災害”だな」

 誰も否定しなかった。


 第二に、門の向こうには文明が存在する。

 次に映し出されたのは、異世界――エルテラ。

 魔導都市アルセリア。

 冒険者連盟。

 観測局ARC。

 「中世的世界観ではない。

  現代文明と魔導文明が融合した、高度な社会構造を持つ世界だ」

 研究主任が補足する。

 「我々の文明水準と比較しても、同等か、それ以上の分野が複数存在します」

 会議室に、重い沈黙が落ちた。

 “未開の異世界”ではない。

 交渉すべき対等な文明圏だ。


 第三に、双方向の行き来が可能である。

 映像には、

 地球側のビーコン反応と、エルテラ側の転移データが並ぶ。

 「地球→エルテラ。

  エルテラ→地球。

  双方からの移動が、理論上も実証上も成立している」

 法務担当が口を開く。

 「つまり、これは“侵入”でもあり、“来訪”でもある。

  法的定義が、現行のどの枠にも当てはまらない」


 第四に、異世界の存在は、すでに一部に知られている。

 「十支族。

  G.O.D関係者。

  一部の軍・研究機関」

 篠原は、あえて言葉を切る。

 「……そして、完全な秘匿は成立していない」

 報道統制。

 SNS。

 現地映像の断片。

 「門の存在を“災害”として誤魔化すにも、限界が来ている」

 「遅かれ早かれ、世界は“気づく”でしょう」


 第五に、異世界には脅威が存在する。

 最後に映し出されたのは、

 魔王領と記された広大な領域。

 「エルテラには、いわゆる“魔王”と呼ばれる存在が複数確認されている」

 研究員の声がわずかに硬くなる。

 「彼らは、国家戦力を単独で凌駕する存在です。

  地球側の常識で測ることはできない」

 ここで、篠原は一瞬だけ視線を円卓から外し、

 悠真の立つ位置を見た。

 だが、名前は呼ばれない。

 言及もされない。

 「そして――」

 篠原は視線を戻し、締めくくる。

 「我々はすでに、

  異世界と接触し、行き来し、協力関係を築き始めている」

 「これは“もしもの話”ではない。

  すでに始まっている現実だ」

 ホログラムが消え、

 円卓だけが残った。

 誰もすぐには口を開かなかった。

 隠すには、知りすぎている。

 伝えるには、危険が多すぎる。

 世界はもう、

 引き返せない地点に立っていた。

 悠真は、静かに息を吐いた。

 (……事実だけ並べても、十分すぎるほど重いな)

 この先に続くのは、

 “判断”だ。

 そしてそれは、

 誰かの正義と、誰かの犠牲を伴う選択になる。



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