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最初に口を開いたのは、広報部門の代表だった。
「結論から言います」
彼女は円卓を一周見渡す。
「――完全秘匿は不可能です」
その一言で、空気がざわついた。
「門の存在は、すでに“噂”の段階を越えています。
映像、証言。
今は断片でも、いずれ必ず繋がる」
軍関係者が即座に反論する。
「だからといって、今公表すればどうなる?
異世界だ、強化だ、資源だ――
世界は混乱する。暴動が起きる」
法務担当も頷いた。
「国家主権の問題もある。
門が存在する地点はどこの領土なのか。
誰が管理し、誰が責任を負うのか。
現行法では一切定義できない」
篠原は腕を組んだまま、黙って聞いている。
秘匿派の主張は明確だった。
「人類はまだ“異世界”を受け入れる準備ができていない」
「強くなれると知れば、必ず無秩序な流入が起きる」
「最悪の場合、門は戦争の火種になる」
軍顧問が低く言う。
「我々は“守る側”だ。
知られなければ、守らずに済む」
その言葉に、研究畑の代表が静かに首を振った。
「……それは、幻想です」
公開派の声は、冷静だった。
「門は消せない。
異世界も消えない。
ならば、知られないまま管理し続けるなど不可能」
研究主任が続ける。
「未知を恐れて隠せば、人は勝手に想像する。
想像は、事実よりも暴走する」
広報代表が補足する。
「今なら、“段階的公開”が可能です。
正しい情報を、制御された形で出せる」
ここで、ある国の代表が問いを投げた。
「……仮に公表したとして。
人類は、“異世界”という現実に耐えられるのか?」
誰も即答できなかった。
静寂の中、凛が一歩前に出る。
「耐えられるかどうか、じゃありません」
彼女の声は震えていない。
「すでに耐えなければならない段階に来ている」
視線が集まる。
「門はある。
異世界はある。
そして、もう人は行き来している」
凛は、悠真のいる方向を一瞬だけ見たが、名前は出さない。
「知らされずに起きる混乱と、
知らされた上で起きる混乱。
どちらがマシかという話です」
篠原が、ようやく口を開いた。
「……私見を言おう」
会議室が静まり返る。
「世界は、耐えられるかどうかではない」
「変化を止められるかどうかだ」
彼はゆっくりと言葉を選ぶ。
「そして答えは、もう出ている」
「止められない」
篠原は円卓を見渡し、断言した。
「ならば、我々がやるべきことは一つだ」
「――混乱の主導権を握る」
公開派と秘匿派。
完全な勝者はいない。
だが、方向性は定まりつつあった。
隠し続ける世界か。
管理しながら向き合う世界か。
悠真は、陪席の位置から円卓を見つめる。
(……世界が耐えられるか、か)
彼自身もまた、
その問いの答えを、まだ知らない。
だが一つだけ、確かなことがあった。
異世界は、もう“物語”ではない。
それを世界にどう伝えるか――
次に決めるのは、その“方法”だった。




