第八十六話「アプリシアの本気ですわ、おほほほほ」
セグメンティアの港の入り口にアプリシア海軍の艦隊が到着すると、なぜか陸で花火が打ち上がった。
「……どういうことだ?
我々は祝われているのか?」
艦載戦闘魔道飛行具「たおすぞ」のパイロットとして、また外交上の切り札として同行していたヨシチェックが、「やらかし」の艦橋から様子を眺めて疑問を浮かべている。
どういうわけか、港は国賓を迎えるかのような祝賀ムードであった。
「これは一杯食わされましたわね、おほほほほ」
セグメンティアからの無線が、わざわざアプリシア語で
「どうぞ入港してください。
接岸して、必要であれば上陸しても構いません」
と言ってきた。
「アプリシアは友軍として認識されているのか…?」
「いえ、どちらかというと今回の宣戦布告、本当に戦うつもりはなく、我々に仲裁を頼みたいがための小芝居だったと思いますわよ、おほほほほ。
そもそもこの国、アプリシア側からだと艦砲射撃、前王朝時代は陸上からの投石機で市街地に届くので、アプリシアとは絶対に敵対しないように振る舞ってきましたもの…」
「……なるほど…」
セグメンティアの港の2隻の空母から飛べば、「たおすぞ」はスタッキア第二の都市上空まで余裕で到達可能である。
この状況でスタッキアと対等に交渉することがセグメンティアの意図であったようだ。
歴史的にみても、王朝が交代してからのスタッキアのセグメンティアに対する扱いは酷かった。
80年前にセグメンティアで騒動が起きた時には、全く収拾がつかない上に、スタッキアが介入する気配が全くなく、最終的にアプリシアが近衛騎士団を派遣した。
因みに正規軍ではなく近衛騎士団なのはそのまま駐留する意図がないという意思表示のためであった。
55年前の飢饉の際には、やはりスタッキアは援助などするそぶりはなく、アプリシアが大量の小麦の支援をした。
そもそもスタッキアはセグメンティアに手を出せるほどの余力はない。
王朝交代時に、前王朝の関係者が国庫の金目のものを持って行方をくらませてしまって、現王朝は成立以来、国家は継承したが財力は全く継承できずに財政難であった。
単純に、スチパー山脈の金鉱がセグメンティア側に広がっているから再編入したいだけなのである。
交渉の席。
スタッキア側の言い分。
「セグメンティア公国はスタッキア国王より任命された地方領主による自治の拡大であり、公王の任の解除は、スタッキア国王の認める場合、自由に行うことができる。
つまりこれはスタッキア国内の問題であり、アプリシアは不当な内政干渉を行っている」
アプリシア側が発言する。
「おほほほほ…。
現在の国民がどうにもできないような歴史的背景を引き合いに出して、国の存亡がかかるような無理難題をふっかけるの、それこそが不当要求ですわ」
「余はヨシチェック・O・K・アプリシアである。
我が王家は正式に前王朝からアプリシアという国を継承したと自認しているが、スタッキアはどうなんだ」
そこにセルベール外相が畳み掛ける。
「そもそもセグメンティアはどのように建国されたか、説明願いたい」
セグメンティア側の発言。
「数百年前、この土地に入植して、その領主として中央から派遣されてきた貴族がセグメンティア公王としてスタッキアから承認されました」
「そう、そもそも両国間の取り決めで国境は山脈であったが、セグメンティアが実効支配していつのまにか今の国境が定着した。
アプリシア側ではこの失態で辺境伯が処刑されている記録が残っている」
事実を述べるセルベール。
「今更、歴史的経緯を持ち出してセグメンティアを再編入するというなら、余は貴国に対して、遡って数百年間分の不法占領の精算を求めたいのだが?」
同じ歴史的背景という論法で無理難題をふっかけるヨシチェック。
「…………。」
スタッキア側は誰も何も言い返せなくなった。
「歴史的背景を都合よく持ち出すから意趣返しですわ、おほほほほ」
フォークランド紛争
南米のアルゼンチンの沖合に浮かぶ英領フォークランド諸島を巡る、アルゼンチンと英国の紛争。
英領ではあるが、フォークランドは完全にアルゼンチンが面倒を見ている構図だったため、アルゼンチンがフォークランド諸島を管理しようとしたところ、英国と衝突。
アルゼンチン空軍は米軍の影響を受けておりかなり英国は痛手を負った。
元々の英国のスタンスであれば「戦って苦戦を強いられた相手には一目を置く」はずなのだが、時の首相がサッチャーであったため結果は………。
樺太千島交換条約
日本政府がロシアに対して北方領土返還を求める根拠。
不法占拠に対して外交上の取り決めを根拠に理詰めしているので、ロシアとしては反論できずはぐらかす以外の逃げ道がない。
竹島、尖閣についてもほぼ同じく史料を積み重ねて理詰めしている。




