第八話「オン・ザ・クラウドでしてよ、おほほほほ」
「ハルカ嬢、これは余の婚約破棄に対する復讐のつもりなのか…」
「いいえ、DXですわ、おほほほほ」
クラウディア連邦に本拠地を置く『オン・ザ・クラウド・テクノロジーズ』と言うふざけた名前の外資企業が、アプリシア王国の国営インフラ企業に資本注入した。
それと同時に、強制的にオン・ザ・クラウドの『雲の上基盤』を使わせる契約を結ばされ、アプリシア国民の血税が基盤利用料として月額でクラウディアに搾取される構図となる。
「いささか月額が高い気もするが、最初の一年無料にしてもらってるし、何より国がこの状況では、背に腹はかえられん」
「懸命なご判断ですわ国王陛下、おほほほほ」
「ハルカ嬢、データセンター維持費、国際回線利用料、高いSLA、もろもろ考慮してもトータルで少々高いですわね。
また何か企んでいらして?」
「おほほほほ、さて何のことかしら?」
この世界の人類には早すぎる会話をする二人を見て「腹心というのは本当だった」とヨシチェックは感心するが、利用料が高いのは気に入らない。
「貴様何を企んでいる?」
「やめんかヨシチェック、今のこの状況をどうにかする方が先だ。
それにハルカ嬢は人の弱みに漬け込んで悪事を働くような人ではないことを、お前が一番よく知っているだろう」
「おほほほほ、人の弱みに漬け込んで、ちょっとだけ利権を貪って私服を肥やすのは特権ですわ。確かにやりすぎると悪徳ですけど、そんなつもりはないのでご安心を」
「……信用していますが…胃が痛いですな」
「ファモチジンですわ、宰相様」
「長期連用は控えた方がよろしくてよ、おほほほほ」
その後、数週間で国内の混乱がほぼ収まった。
物流が鉄の轍の上を走る魔道具に依存していて、その運行管理に必要な時を刻む力が壊れた。
結果として物流がストップして各地で暴動や略奪が起きそうな状況だったが、国から各家庭に支給・配備されていた非常食が何とかそこを尽きる前に物流が復旧したのである。
「そう言えば、この非常食もハルカ嬢が趣味で作ったモノだったな…」
「ええ、『ようかん』ですわね…。糖分多めで高カロリー、同時に自由水が少ないので保存が効きますわ。ハルカ嬢は『コレの時は紅茶じゃなくて緑茶が欲しいですわ。でも緑茶という概念は存在しませんの、おほほほほ』と言っていましたわね」
「『緑茶』?何だそれ…」
「茶の一種ですが、苦いですわね。あとややアルカリ寄りなので胃酸過多の時は若干マシになりますわ」
「毎日胃が痛い身としては興味深いですな…。
しかし概念が存在しないのになぜアカリ嬢は味をご存知なのですかな?」
「それは、秘密ですわ、宰相様」
一方、オン・ザ・クラウド・テクノロジーズ本社。
「野菜工場でのあずきの製造体制はほぼ完璧です」
「ようかん工場、量産体制に入れます」
「おほほほほ、工場野菜は赤色LEDと青色LEDが命ですわ。
しかし青色LED、作るの大変でしたの。流石は国際名誉賞モノですわね」
「で、緑茶は?」
「輸入元で加工されてしまうので生の茶葉が手に入りません。
そしてチャノキは寒冷なクラウディアでは育ちません」
「…おほほほほ、現地の農場を買収するしかなさそうですわね」




